障害者虐待

障害者虐待防止法の通報義務とその重要性

弁護士が解説 障害者虐待 通報が全ての人を救う?
前園 進也

はじめに

障害者虐待における通報義務と通報したらどうなるかということを解説します。この記事では、障害福祉サービス事業者やその従業員から虐待を受けた場合に絞ります。

障害者虐待についての報道がない日はないと思えるぐらい障害者虐待のニュースはありふれています。障害者虐待が起きてしまった場合に、真っ先にすべきなのは、虐待の通報や届出です。障害者、その家族や支援者は、通報についての基本的な知識は知っておいた方がいいので、最後までお読みになってください。

通報義務

障害者虐待防止法16条1項は、次のように定めます。

障害者福祉施設従事者等による障害者虐待を受けたと思われる障害者を発見した者は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない。

障害者虐待防止法16条1項

つまり、障害福祉サービス事業者やその従業員から障害者虐待を受けたと思われる障害者を発見したときは、速やかに、市区町村に通報しなければならないとしています。これを通報義務といいます。

通報義務がある人について、なんの限定していませんので、虐待を受けたと思われる障害者を発見したら、誰であれ必ず通報しなければならない法的義務があるということを意味します。

ここで重要なのは「虐待を受けたと思われる」という言葉です。虐待を実際に目撃している必要はありません。
また、虐待の事実を確認する必要もありません。

例えば、不審なケガやアザがある、障害福祉サービスのスタッフが大声で怒鳴っていた、支援者に対してひどく怯えているなどで、虐待を受けたと思われたら、通報する法的義務が発生します。

虐待の事実確認は、通報を受けた市区町村が行います。厚生労働省が発表した「令和2年度都道府県・市区町村における障害者虐待事例への対応状況等(調査結果)」によると、相談、通報や障害者本人による届出のうち、虐待と判断されるのは2割程度です。この2割という数字からもわかるように、虐待とは判断されないのがほとんどなので、通報したけど虐待ではなかったらどうしようというふうに、通報をためらう必要はないです。

通報者の保護

躊躇わずに通報とはいっても、通報することで面倒なことに巻き込まれたくないので、通報をためらうということもあるかと思います。この点については、次のような手当がなされています。

  1. 通報や届出した人が誰か特定できる情報を漏らしてはならないと法律に規定(障害者虐待防止法18条
  2. 障害福祉サービス事業者の従業員が通報者の場合、通報したことで職場を解雇されるなどの不利益を受けない(障害者虐待防止法16条4項
  3. 通報自体は障害福祉サービス事業者としての守秘義務違反にはならない(障害者虐待防止法16条3項)

このように通報者は保護されています。

通報後の市区町村の調査

通報や届出をした後、市区町村は、虐待を受けたと思われる障害者と、虐待をしたと思われた支援者が所属する障害福祉サービス事業者に対して、聞き取りなどの調査を行います。この調査は、任意の協力に基づくものです。なので、調査に協力しないことに対する法的なペナルティはありません。

ただし、この調査に障害福祉サービス事業者が調査に協力しなかったり、悪質なケースであったりすると、市区町村は都道府県と連携して、障害者総合支援法などの法的な権限に基づいて、調査を行います(障害者虐待防止法19条)。この法律に基づく権限が行使されると、立入検査や記録の提出、質問などを拒否したり嘘をついたりすると、犯罪として30万円以下の罰金が課せられることもあります。

この調査において、虐待の事実の有無が確認されます。虐待が認定されたり、虐待とは言えなくても不適切な事案があったりすると、都道府県や市区町村は障害福祉サービス事業者に対して、再発防止策を作り、改善に取り組むよう指導することになります。

通報は全ての人を救う?

国(厚生労働省)は、「障害者福祉施設等における障害者虐待の防止と対応の手引き」というものを公表しています。その7ページに「通報は全ての人を救う」ということが書かれています。この「全ての人」の中には、虐待を受けた障害者だけではなく、虐待をした張本人やその人を雇っていた事業者・法人も含まれています。最後に、この点について触れます。

虐待は放置されるとエスカレートする傾向があります。そのため、最初の軽微の虐待で通報がされたら、虐待に遭った障害者は、最小限の被害ですみます。ですので、通報や届出は、障害者を救うことになります。

他方、障害者を虐待した障害福祉サービス事業の従業員にとっても最初の軽微な虐待で通報されると、数十万程度の民事上の損害賠償責任を負うだけで、すみます。軽微な虐待であれば警察に逮捕されたり、前科者になったりすることも避けられるでしょう。また、軽微な虐待であれば、解雇されずに、職場でのやり直しのチャンスを与えられることもあります。

虐待がエスカレートして、日常的な虐待が複数の障害者に行われるようになると、場合によっては、加害者は刑務所に行くことになります。

虐待がエスカレートすると、民事上の損害賠償義務も金額が増えます。この損害賠償義務は、法人も負うことも十分あります。サービス提供中の事故であれば、損害保険で損害賠償金を支払うことができます。が、虐待の場合は不注意による事故ではなく故意なので、損害保険金は支払われないので、法人の自己負担になります。虐待によって死亡したり、後遺障害が残ったりすると、被害者一人当たり1000万円単位の賠償義務を負うこともありえます。

虐待がエスカレートする前に、市区町村が介入することは、障害者、虐待をした支援者、事業者・法人3者にとって、被害、不利益を最小限に抑えることになるので、厚生労働省は「通報は全ての人を救う」として、通報を奨励しています。

最後に

障害者虐待防止法が定める通報義務について、その意味や意義について解説しました。この記事を読んで、虐待を受けたと思われる障害者を見つけたら、臆せずに、通報できる人が少しでも増えたらと思います。

とはいっても、通報するには勇気がいることだと思います。障害者やその家族としては、届出・通報することで、ようやく受け入れてもらえた居場所を失うかもしれません。障害福祉サービス事業所で働いている人にとっては、仲間を裏切ることになって、職場に居られなくなるかもしれません。

なので、虐待かもしれないというだけでは、通報しにくいと思います。そのような場合には、個別に法律相談を受けることもできます。お問い合わせページからお問い合わせください。

この記事の著者
前園 進也
埼玉弁護士会・サニープレイス法律事務所所属 重度知的障害児の父親 障害者の親亡き後や障害福祉について、障害者の親&弁護士の視点から役立つ情報を発信しています。法律相談もできますので、お気軽にお問い合わせください。
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