障害のある子どもの親が知っておくべき「遺留分」の基礎知識
はじめに
障害のあるお子さんのために、将来をしっかりと考えて遺言書を残したい。その親心は当然のことです。しかし、遺言書の内容によっては、配偶者やお子さんの最低限の権利である「遺留分」を侵害してしまう可能性があります。
例えば、お子さんの生活を守るために、財産を多く残したいと考えることもあるでしょう。しかし、その結果として、他の相続人の遺留分を侵害してしまうケースも出てきます。
遺言書は、ご自身の想いを反映できる大切な手段ですが、同時に、法的な知識と配慮が必要です。
そこで、この記事では、障害の子どものいる親向けに「遺留分」の基礎知識を解説します。
なお、遺留分を正確に理解するためには「相続人」と「相続分」の理解が前提となります。相続人と相続分については「これだけは知っておきたい!相続人と相続分〜親亡き後の備え〜」で解説しています。
遺留分とは?
配偶者や子どもなどの一定の相続人について、最低限保障される遺産(相続財産)の取得分のことです。
本来、私たちは自分の財産を自由に使うことができますし、遺言書を書いて、亡くなった後の財産の使い道も決めることができます。ただし、少しだけ例外があって、それが『遺留分』です。遺留分があることで、財産を自由に処分できる範囲が少し制限されることになります。
誰が遺留分を請求できる?~遺留分権者について~
この遺留分の権利がある相続人(遺留分権者)は、以下のとおりです1。
- 配偶者
- 子ども(孫などの代襲相続人も含む)
- 父母(父母がいないときは祖父母)
ちなみに、兄弟姉妹には遺留分がありません。
この記事は障害者の親向けの記事なので、障害者の親が被相続人(財産を残す人)である前提です。そのため、父母の遺留分については考慮しません。
遺留分の割合は?
配偶者、子どもの遺留分の割合は、法定相続分の2分の1となります2。
私のように配偶者と子どもが1人の場合、配偶者の遺留分は法定相続分の4分の1(25%)となり、子どもの遺留分は同じく4分の1(25%)となります。
配偶者と子どもが2人の場合は、配偶者の遺留分は変わらず4分の1(25%)です。しかし、子どもが2人いる場合はそれぞれの法定相続分が4分の1ですので、その2分の1である8分の1(12.5%)となります。
遺留分を侵害するとどうなる?
遺留分が問題になるのは、こんな場合です。被相続人が遺言書を残していて、その内容によって、本来もらえるはずの最低限の遺産(遺留分)よりも、もらえる額が少なくなってしまう場合です。これを『遺留分の侵害』といいます。逆に言うと、遺言書がない場合や、遺言書があっても最低限の遺産はもらえる場合は、遺留分は問題になりません。
障害者の親が親亡き後の備えとして、遺言書を書く代表的な場合として、次の二つが考えられます。
- 障害のある子の少ない収入を補うために、多めに財産を残したい
- 障害のある子はお金の管理が難しいので、障害のない相続人に多めに財産を残したい
このような場合には、遺留分を侵害することがあり得ます。
遺留分が侵害された遺留分権者は、侵害された分に相当するお金の支払いを請求できます。これを「遺留分侵害請求」といいます3。
請求内容
被相続人の遺産からすると、遺留分として500万円は相続できるとします。しかし、遺言の内容から300万円しか相続できなかったとします。その場合は差額の200万円の支払いを請求できます。もちろん、遺言の内容から1円も相続できなかった場合は、500万円を請求できます。
期間制限
ただ、注意が必要なのは、遺留分侵害請求には期限があるということです。以下の期限を過ぎてしまうと、お金の請求ができなくなってしまいます4。
- (1)被相続人が亡くなったことと(2)遺留分が侵害されていることの両方を知ってから1年間
- 被相続人が亡くなってから10年間
この期間制限について、遺留分侵害請求なんてできないような重めの障害のある子どもの遺留分を侵害するような遺言を残す場合には、さらに注意が必要です。それは上記の期間制限を過ぎても、重めの障害のある子どもに成年後見人が選任されたら、その成年後見人から遺留分侵害請求がされる可能性がゼロではないことです。そのため、重めの障害のある子どもの遺留分を侵害するような遺言を残す場合には、遺留分侵害請求されても大丈夫なように手配をした方がいいです。
遺留分の放棄はできる?~手続きと注意点~
遺留分は権利ですので、遺留分権者が放棄できます。
例えば、遺言書に遺留分を侵害することになった理由と遺留分の請求をしないように記載できます。その内容を遺留分権者が読んで納得すれば、被相続人の意思を尊重して、遺留分侵害を請求しないこともあります。
このように被相続人が亡くなった後に、遺留分権者が遺留分の侵害を請求するかどうか(遺留分を放棄するかどうか)は、遺留分権者の自由です。
他方、被相続人が亡くなる前に、相続人になる予定の人があらかじめ遺留分を放棄することもできます。ただし、生前の遺留分の放棄は自由ではなく、家庭裁判所の許可が必要となります5。この事前放棄を簡単に認めてしまうと、遺留分の制度がなし崩しになってしまうからです。
まとめ~遺言書作成のポイント~
遺留分制度は、相続における配偶者や子どもなどを守るための重要な仕組みです。遺言書を作成する際には、遺留分への配慮が不可欠です。遺留分を侵害する可能性がある場合は、将来のトラブルを防ぐような備えが必要となります。
遺言書は、あなたの想いを未来に伝える大切な手段です。ただし、法的な知識と配慮が必要です。この記事が、あなたの遺言書作成の一助となることを願っています。
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私自身、重度知的障害のある子どもの父親であり、障害のある子を育てる親としての視点も踏まえながら、あなたの想いを形にするお手伝いをいたします。