措置入院とは?措置入院に不安な家族へ|精神障害者の強制入院と退院後のサポート【弁護士解説】
はじめに
精神科病院への強制的入院である「措置入院」について取り上げます。措置入院は、知的障害や発達障害、認知症を含む精神の障害がある人やその家族にとって、無縁ではありません。
私は、精神科病院への強制入院や強制入院された人の退院の希望について、審査する仕事を4年間していました。強制入院の現場をある程度知る者として、措置入院についてお話ししたいと思います。
精神の障害がある人やその家族の方は最後までお読みください。
精神科病院の入院形態
措置入院は何かを解説する前に、精神科病院への入院形態を紹介します。精神科病院への入院は、次の三つ分けられます。
- 任意入院
- 医療保護入院
- 措置入院
任意入院
任意入院というのは、精神科病院に入院する患者さんの自発的な入院や同意のある入院です。任意入院が原則となります。
医療保護入院
医療保護入院というのは、本人は入院したくなくても、入院治療や保護が必要な場合、家族や市町村長、成年後見人などの同意に基づく入院です。医療保護入院は強制的な入院の一つです。
精神科病院への入院の約4割が医療保護入院です。
措置入院
最後に措置入院です。措置入院は、次のような人に対する強制入院です。
- 精神障害者で
- 入院させないと
- 精神障害のため自傷他害のおそれのある人
医療保護入院と違って、二名の医師が1.から3.についての判断が一致していれば、都道府県知事・政令指定都市長が入院させることができます。
自傷他害のおそれ
措置入院のポイントは、精神障害のため自傷他害のおそれがあるかどうかです。
自傷とは
自傷とは、厚生労働省の基準によると、自殺企図など自分の生命・身体を害する行為です。
浪費や自分の物を壊すなどの自分の財産への損害を与える行為は、含まれません。
他害とは
他害とは、同じく厚生労働省によると、次のような他人や社会に対して害となる行為、犯罪となり得る行為のことです。
- 暴行傷害
- 性犯罪
- 窃盗
- 器物損壊
- 名誉毀損・侮辱
- 放火 etc.
措置入院の危険性
自傷他害の具体例を聞くと、そのようなおそれがあるのなら、強制的にでも入院治療させた方がいいと思う方もいるかと思います。ただ、よくよく考えると問題があります。自傷他害があったから入院させるということではなく、自傷他害のおそれがあるから入院させるというものです。つまり、あくまでも予測に基づくのです。実際に自傷他害がなくても、起こしそうと判断されたら、強制的に入院させられます。
しかも、侮辱という法定刑の短い犯罪をしそうだというだけでも、措置入院できてしまうのは問題です。
また、自傷他害のおそれの判断は精神科医が行います。他害は原則として犯罪となり得る行為です。法律の専門家でもない精神科医が、犯罪となり得る行為について正確な判断ができるか疑問です。
例えば、侮辱は人前でしないと犯罪としての侮辱になりません。家庭内で家族に対して暴言を吐くだけでは、侮辱には当たりません。この違いを精神科医はちゃんと理解できているかは疑問です。
措置入院はなくせとまでは、私もいいません。ただ、危うい制度であることは頭に入れておいてほしいです。
措置入院までの流れ
次に、措置入院の流れを説明します。措置入院の一般的な流れは、次のとおりです。
- 通報
- 事前調査
- 措置診察
- 措置入院の実施
通報
1.の通報の約7割が警察官による通報といわれています。私が知るケースでも、同居する家族やトラブルになったご近所さんが110番通報して、臨場した警察官が通報するということが多かったです。
事前調査
事前調査とは、通報を受けて、精神保健福祉センターの専門職員が、通報された精神障害者と面談して、3.の措置診察をした方がいいかを判断することです。
措置診察をした方がいいと判断されたら、次の措置診察に進みます。
措置診察
措置診察とは、二名以上の専門的な精神科医が、通報された人に精神障害があるかどうか、自傷他害のおそれがあるかどうかを診察することです。
診察の客観性を確保するために、別々の病院の精神科医を選んだり、診察した病院には措置入院させないなどの取り決めがあります。
措置入院の退院(措置解除)
最後に、措置入院の退院、措置解除について解説します。措置入院された場合に、精神症状が落ち着いて自傷他害のおそれがなくなれば、措置入院は解除されます。
措置入院が解除されれば、すぐに退院できるかというと、必ずしもそうとは限りません。どういことかというと、自傷他害のおそれはなくなっても入院治療の必要がある場合には、措置入院が解除された後、家族などの同意を得て
医療保護入院に移行することがあります。
本人や家族が、精神症状が落ち着いて自傷他害のおそれがなくなったと思っても、主治医が退院させてくれないということがあります。そのような場合には、都道府県や政令指定都市に対して、退院を請求することができます。
退院請求は入院している人が、病院の中からでもできますし、家族がすることもできます。
退院請求が都道府県などに届くと、その都道府県や政令指定都市の精神医療審査会から医師、弁護士、精神保健福祉士が、病院に派遣されます。そして、本人、主治医、家族から事情を聞き取ります。
その上で、精神症状が落ち着いて自傷他害のおそれがなくなったと、精神医療審査会が判断したら、都道府県知事などに対して、退院させるように求めます。
措置入院は、都道府県知事などが行うので、精神医療審査会が退院させるという審査結果になったときは、都道府県知事などは、措置解除することになります。
先ほども述べましたが、措置入院は、入院治療の結果、精神症状が落ち着き自傷他害のおそれがなくなれば、解除されます。そのため、措置入院は、入院医療の必要と家族などの同意で、強制的に入院させられる医療保護入院と比べると、一般的に入院期間は短期間になります。
私は、精神医療審査会のメンバーとして、措置入院の退院請求の審査を担当したことがあります。自傷他害のおそれについては、厳しめに審査していました。
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私は、重度知的障害の子どもの父親であり、弁護士として4年間、精神医療審査会の法律委員を務めてまいりました。
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