知っておきたい、もう一つの法人後見の魅力
知的障害のある子を持つ親が亡くなった後、それまで親が担ってきた「わが子のために親身になって一生懸命動く」役割を果たしてくれる人がいなくなります。現行制度では、その役割を担える公的な立場として、成年後見人(2026年6月に成立した民法改正後は補助人)しかありません。だからこそ、誰が成年後見人になるかは、親亡き後の備えのなかでも特に重要なテーマです。
前の記事では、個人が成年後見人などになる場合の継続性の問題と、法人後見がその解決策になり得ることを説明しました。法人後見には、継続性の確保以外にも、親として魅力を感じる長所があります。それが「チーム支援」です。この記事では、チーム支援としての法人後見の長所を、実際の実践例をもとに紹介します。
法人後見の長所はチーム支援にある
法人後見の長所は、複数の人がご本人を支えられる点にあります。
個人が成年後見人になる場合でも、事務員がいればチームで支援することはできます。しかし、親族が成年後見人になる場合はそもそも事務員がおらず、弁護士や社会福祉士などの専門職が成年後見人になる場合も、事務員がいるとは限りません。実際には、成年後見人一人でご本人の支援を担っていることは少なくありません。
それに対して、法人後見では、法人は多くの場合、複数の構成員からなる団体であるため、複数の構成員でご本人を支えるチームを組めます。
チームで支援することで、一人では難しいことができるという、個人後見にはない長所が生まれます。以下に具体的な長所を挙げます。
第一に、同じテーマについて複数の視点から検討できます。例えば、ご本人の財産の使い道や使い方について、複数のメンバーで意見を出し合うことで、より適切な判断ができます。
第二に、法人内で役割を分担することで、業務を効率よく進められます。例えば、担当者会議など専門的な判断が必要な場面は専門職が、通帳の記帳や支払い・書類整理などの事務作業は事務員が担います。
第三に、複数人が相互にチェックし合うことで、不正や見落としを防ぐことができます。一人が担う場合、自分で自分を監視することになるため、ミスや不正が見過ごされやすくなります。複数人の目が常に入る環境は、不正の抑止力にもなります。
多職種で支える法人後見の実践
法人後見の理想的な在り方の一つが、多職種チームによる支援です。福祉・医療・法律それぞれの専門職がチームとして関わることで、異なる専門的視点からご本人を支えられるからです。このような理想的な法人後見の実践例を紹介します1。
認定NPO法人つなぐ(神奈川県横浜市鶴見区)は、知的障害者の後見人を引き受けるために2019年4月に設立されました。社会福祉士や看護師、弁護士ら計31人で構成され、2025年12月末時点で53人の支援にあたっています。
支援のあり方は、チームならではのものです。それぞれの担当者が毎月1回はご本人に会い、定期的に複数のメンバーで検討会を開きます。検討会では担当者の活動内容やご本人の健康状態、暮らしぶりなどの情報を共有し、お金の使い方もチェックします。同法人の根岸満恵副理事長は「チームでアイデアを出し合うことで個人の資質以上の支援ができる」と述べています。

福祉・医療・法律の専門職がチームとしてご本人を支えるこの在り方は、親として魅力を感じます。多職種チームによる法人後見は、理想論ではなく、実際に存在する支援の形です。
親の会が支える法人後見の実践
多職種チームによる支援とは別に、親としてもう一つ魅力を感じる法人後見の形があります。それが、親の会を母体として設立された法人後見です。
知的障害のある子を持つ親であれば、誰しも「親亡き後も、わが子を親代わりに支えてほしい」という思いを抱くのではないでしょうか。もちろん、他人に親と同じ愛情を求めることは現実的ではありません。
親の会を母体として設立された法人では、後見業務を担うのが知的障害のある子を持つ親たちです。後見業務は、親族後見人や市民後見人の存在が示すように、専門職でなければできないわけではありません。同じ立場を経験してきた親たちが、ご本人の財産や暮らしを守ってくれるという安心感があります。「親代わり」とは言えなくとも、親の感覚に近い視点でご本人を支えてくれることへの期待が持てます。
このような法人後見は、理念としてだけでなく、実際に全国各地で実践されています。設立が確認できるものだけでも、以下の6件があります。
- NPO法人となみ野後見福祉会(富山県小矢部市)
- 公益社団法人埼玉県手をつなぐ育成会(埼玉県さいたま市)
- NPO法人蒼の会(愛知県名古屋市中村区)
- NPO法人福井県手をつなぐ育成会(福井県福井市)
- NPO法人成年後見もやい(愛知県名古屋市熱田区)
- NPO法人トラストつなぐ(秋田県秋田市)

法人後見は親が魅力を感じる選択肢になる
ここまで、チーム支援としての法人後見の長所と、実際の実践例を紹介してきました。多職種による支援も、親の会が担う支援も、一人の成年後見人では実現できない支援の形です。どちらの法人後見を選べばよいか、迷う方もいるかもしれません。実は、どちらか一方しか選べないわけではありません。親の会が立ち上げた法人後見に専門職が関わることができれば、両方の長所を兼ね備えた支援体制になります。
知的障害のある子を持つ親として、これほど魅力を感じる法人後見は少なくありません。しかし現実には、多くの地域で選択肢として存在すらしていません。普及の実態を見ると、最高裁判所が公表した統計(令和7年)によると、新たに選任された成年後見人等のうち、法人後見はわずか約13%にすぎません2。それほど普及していないのはなぜか。その原因となる課題を、次の記事では詳しく取り上げます。