「もしも」の準備を今、遺言で〜障害のある子の親が知っておくべきこと
「もしも」のとき、家族に安心を。遺言の準備を始めませんか?
障害者の親にとって、自分がこの世を去った後、残される障害のある子どものことが気がかりなのは当然のことでしょう。
「この子よりも先に逝くわけにはいかない」
「私がいなくなったらこの子は・・・」
私たち障害者の親はこのような不安と葛藤を抱えながら、日々を過ごされているのではないでしょうか。
障害のあるわが子だけではなく残された家族全員が、少しでも不安を減らし、安心して暮らしていけるように、今からできる準備をしておくことは大切なことです。
その準備の一つとして、特に重要なのが「遺言」です。
遺言とは?
遺言とは、自分が亡くなった後に自分の財産をどのようにしたいかを書き残したものです。
遺言という言葉を知っていても、実際に作る人は少ないのが現状です。
「うちは財産が少ないから関係ない」と思っていませんか? 確かに、資産があってもそれを上回る借金があるのなら、遺言書を作る必要はありません。しかし、借金よりも資産が上回るのであれば、遺言書を作成するべきです。
私は弁護士として遺産に関わるトラブルを多く見てきました。遺産の金額が少なければ相続人同士で揉めないかというとそんなことはありません。遺産の総額が1,000万円より少なくても揉める家族は揉めます。特に、子ども同士は、端から見ると些細なことで感情むき出しでお互いに貶め合っている姿をよく見ます。
遺産相続は基本的に「棚からぼたもち」です。親が一所懸命蓄えた財産をたまたま子どもであったという理由でもらえる過ぎないです。そんな当たり前なことは忘れて、家族同士で争う家族は少なくありません。
遺言がないことで起こるトラブルとその回避法
私たち障害者の親が遺言を残さないとどのようなトラブルが起こりやすいかを紹介します。次の3つトラブルが代表的です。
- 相続人間で揉める
- 遺産分割協議が困難になる
- 成年後見制度の利用が必要となる
この3つのトラブルについて、詳しく解説します。
相続人間で揉める
親が遺言を残さないと、残された家族(相続人)間で遺産をどのように分けるかという話し合いが必要になります。これを「遺産分割協議」といいます。お互いに冷静に譲り合って話し合いができればいいのですが、トラブルに発展するケースは少なくありません。
これは相続人に障害者がいるかどうかは関係ありませんが。
遺産分割協議が困難になる
次の2点は、相続人に重度の知的障害者や重度の精神障害者(以下「重度の障害者」とする)がいる場合は注意が必要です。
重度の障害者には、以下のような問題が生じて、遺産分割の話し合いができない、難航することになりやすいです。
- 障害者の意思がよくわからない
- 遺産分割協議自体を理解することが難しい
- 相続することのメリット、デメリットの検討が難しい
なお、遺産分割協議は重要な法的行為であるため、意思決定支援だけでは対応が難しいです。
成年後見制度の利用が必要となる
相続人に重度の障害者がいることで遺産分割協議が困難になる場合、それを解決するオーソドックスな方法は、その障害者に成年後見人をつけることです。ただ、そのためには家庭裁判所への申し立てが必要になるため、時間も費用もかかってしまいます。
仮に、他の相続人が譲り合うことで、遺産分割の話し合いが問題なくまとまったとしても、別の問題が生じます。それは、重度の障害があると預金の解約や不動産の名義変更などの相続手続き自体も困難ということです。このような場合においても、解決するオーソドックスな方法は成年後見制度の利用です。
成年後見制度について、詳しくは「成年後見制度ガイド:我が子の未来を守るために【知的障害・精神障害のある子の親御さんへ】」をご覧ください。
遺言によるトラブルの回避
私たち障害者の親が遺言がないことで生じるトラブルの代表例を3つ紹介しました。この3つの厄介ごとは遺言を残すことで回避することができます。
遺言があれば、遺産分割の話し合いをする必要はありません。ですので、遺言の内容が遺留分を侵害することがなければ、揉める可能性はグッと減ります。遺留分とは、遺言によっても奪うことができない最低限の相続分のことです。
また、遺言に遺言執行者を指定すれば、障害者が相続の手続きに関与する必要もなくなります。
ですので、相続人に重度の障害者がいても成年後見制度を利用する必要も生じなくなります。
まとめ:障害者の親にとっての遺言の役割
ここまでの説明を踏まえて、障害者の親にとって遺言はどのような役割を果たすのでしょうか?
大きく分けて以下の3つの役割があります。
- 収入の少ない重度の障害者の生活資金を残す手段
- 残された家族(相続人)同士の争いを避ける
- 万が一の際に、残された家族に余計な負担をかけず、安心を残す
3つ目の役割があるため、まだ若くて元気な親であっても、万が一の事態に備え、とりあえずの遺言書を作成しておくことをおすすめします。私はまだ49歳(2024年10月現在)ですが、2年前ぐらいに手書きの遺言書を書いて、最寄りの法務局に保管しています。
人は70歳になるといつ亡くなってもおかしくありません。ですので、遅くとも70歳になったら、最終的な遺言書を作ることをおすすめします。
もっとも、障害者の親亡き後の備えとして、最終的に親の財産を障害のある子どもに残す方法が、遺言がどの家庭においてもベストであるとは限りません。遺言よりも信託や生命保険の方が適切な場合もあるので、この点はご注意ください。
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私自身、重度知的障害のある子どもの父親であり、障害のある子を育てる親としての視点も踏まえながら、あなたの想いを形にするお手伝いをいたします。