社会福祉協議会職員による着服事件【成年後見制度の不正】
報道の概要
大分県佐伯市社会福祉協議会は、成年後見主任専門員の男性職員(40代)が、管理していた市内の福祉施設入所者4人の預貯金42万7420円を着服したとして、8月31日付で懲戒解雇しました。
この男性職員は2023年10月から翌年7月までに計17回、出金時に必要な施設の受取証を偽造するなどして現金を引き出し、親の借金返済に使用したと認めています。同僚が不審な出金記録に気付き、発覚しました。
社協は全額が弁済されたため、刑事告訴は行わない方針です1。
社会福祉協議会とは?
市町村の社会福祉協議会(「社協」と略されることもあります)は、社会福祉法に基づいて各市町村に設置された地域福祉を推進する民間団体です2。
ただし、民間団体とはいえ財源の4割は行政からの補助金や寄付金で運営されていることから、公益性の高い団体です3。
成年後見主任専門員とは?
懲戒解雇された男性職員は成年後見主任専門員という肩書きでした。この成年後見主任専門員とはなんでしょうか?インターネットで調べた限りではよくわかりませんでした。この職員は社協が委託を受けて運営している「佐伯市成年後見支援センター」の業務に従事していたと思われます。主任とあるので平の専門員ではないことが窺われます。
着服事件の詳細:偽造受領書と複数回の引き出し
男性職員は、「出金時に必要な施設の受取証を偽造」したと報道されています。この偽造された受取証というものがどのようなものかは報道からはわかりません。施設とは被害にあった4人の入所者が入所していた施設のことと思われます。よくわからないのが、通常成年後見人はご本人の預貯金通帳を管理保管しているので、入所施設の受取証が預貯金の払い戻しになぜ必要なのかはよくわかりません。
男性職員は合計17回預貯金口座から現金を払い戻していて、合計約42万円を男性職員の親の借金返済に充てたそうです。17回で42万円なので、単純計算で1回あたり約2.5万円を払い戻したことになります。
成年後見人は毎年最低1回、家庭裁判所に成年後見の業務報告書を提出します。1回あたり10万円を越える支出があった場合、その使途を報告し、領収書のコピーなどを提出しなければなりません。仮に1回の払い戻しが2.5万円前後であれば、家庭裁判所には使途を報告することは求められません。成年後見主任専門員で会えれば、この10万円以下の支出は家庭裁判所に報告しなくてもいいことはわかっていたはずです。
もっとも、10万円を超える支出を家庭裁判所に報告する必要はなくとも、成年後見人は一円単位で帳簿などに入出金の記録をとっています。一般的に施設入所者の収支は安定しており、臨時の出費はあまりありません。そのため、少額であっても使途の不明な払い戻しがあれば、おかしいと気づかれやすいです。
刑事告訴見送り:その判断の問題点
この報道において、社協が刑事告訴しない方針であることに疑問があります。理由は以下のとおりです。
報道内容から、男性職員の行為は業務上横領罪に該当する可能性が高いと考えられます。業務上横領罪は、10年以下の懲役刑が規定されています4。罰金刑が設けられていないことから、詐欺罪や恐喝罪と同等の重大な犯罪です。
業務上横領罪における被害者は、着服された預金の権利者である4人の施設入所者であり、社協ではありません。社協は、刑事告訴を行うか否かの判断において、被害者である入所者たちの処罰感情や意思を確認する必要があります。
しかし、記事からは、社協がそのような確認を行った形跡が見られません。さらに、成年後見人が選任されているということは、入所者の方々は自身で適切な判断を行うことが困難な状況である可能性があります。そのような場合、社協は、入所者たちの法定代理人として、彼らの権利と利益を守る立場から、処罰感情・意思を積極的に確認し、その意思が不明である場合には刑事告訴を行うべきだったと考えます。
なぜなら、社協が刑事告訴をしないという判断は、単に男性職員の行為に対する法的責任追及を放棄するだけでなく、成年後見制度に対する社会的な信頼を損ない、将来的な同様の事件の発生を助長する可能性もあるからです。
また、男性職員は受取証を偽造するという文書の偽造も行っています。また、横領の回数も17回と繰り返しています。被害者は4人もおり、被害金額も42万円と少額とは決していえません。このように全額の被害弁償と懲戒解雇だけ軽微な事案とはいえません。
刑事告訴をした上で、起訴するかどうか、処罰するかどうかは司法に委ねるべきだったのではないかと考えます。
- 1 読売新聞オンライン「成年後見人の職員が福祉施設入所者4人の預貯金を着服…「親の借金返済に充てた」と認め懲戒解雇」 ↩︎
- 2 社会福祉法101条 ↩︎
- 3 「社会福祉協議会の組織・事業・活動について」 ↩︎
- 4 刑法253条 ↩︎