成年後見

障害のある子の親が認知症になったら?親亡き後を見据えた備えとは

前園 進也
前園 進也
前園 進也
弁護士
Profile
重度知的障害児の父親
埼玉弁護士会・サニープレイス法律事務所所属

障害者の親亡き後や障害福祉について、障害者の親&弁護士の視点から役立つ情報を発信しています。法律相談もできますので、お気軽にお問い合わせください。
プロフィールを読む

はじめに

「もしも私に何かあったら、この子は…」

障害のある子どもを育てる私は、弁護士として多くの家族と向き合う中で、常にこの不安を抱えています。

特に、自分自身が病気や事故で判断能力を失ってしまったら? 子どもは誰が守ってくれるのか? そんな不安を抱えている親御さんは、決して少なくないはずです。

私は、障害のある一人っ子がいる母(配偶者とは死別)が事故で植物状態になってしまったケースを知っています。

この記事では、障害のあるお子さんの親御さんが、認知症などになった場合に備え、知っておくべきこと、そして具体的にできる対策について、私の経験も踏まえながら詳しく解説していきます。

親に何かあったらどうなる?

私たち親が、認知症や事故などで判断能力を失ってしまうと、これまでのように子どもを支えることができなくなります。そうなると、障害のあるお子さんの生活にも大きな影響が出てしまうでしょう。

例えば、預貯金の管理や福祉サービスの利用料の支払いなど、日常生活を送る上でお金が必要になる場面は多くあります。しかし、判断能力が低下してしまうと、これらの手続きを自分自身で行うことが難しくなります。

また、これまで日常的に行っていた、福祉事業者との連絡や相談、施設への送迎などもできなくなる可能性があります。

成年後見制度だけでは不十分?

このような事態に備えて、成年後見制度を利用するという方法があります。成年後見制度とは、判断能力が不十分な方を保護し、その方の代わりに財産管理や身上監護を行うための制度です。

家庭裁判所に申し立てを行うことで、ご家族や弁護士などが成年後見人に選任されます。成年後見人は、本人の財産を管理したり、必要な契約を締結したりすることができます。

成年後見人にできないこと

しかし、成年後見制度は万能ではありません。成年後見人には、 できないこと もあります。

例えば、

  • 遺言書の作成: 本人の意思決定が非常に重要となる遺言書は、成年後見人が作成することはできません。
  • 信託の設定: 財産を信頼できる人に託し、管理・運用してもらう「信託」も、原則として設定できません。ただし、預貯金のみを対象とした「成年後見制度支援信託」は利用可能です。
  • 多額の生前贈与: 本人の財産を減らすことになる生前贈与も、原則として認められていません。
  • 生命保険の新規加入: 死亡保険金は本人の死後の財産となるため、成年後見人が加入する必要はありません。

このように、成年後見制度はあくまで「本人の現在を守る」ための制度であり、「将来に向けた備え」をすることは難しいのが現状です。

成年後見人がしてくれないこと

さらに、成年後見人は できるけれど、実際にはやってくれない ことも多くあります。

それは、これまで親として行ってきたような、

  • 福祉事業者との連絡や相談
  • 施設への送迎
  • 障害福祉サービスの利用申請

といったことです。

なぜなら、これらの行為はあくまでも「子ども」のために行うものであり、「親本人」のために行うものではないからです。成年後見人の報酬は、原則として本人の財産から支払われるため、本人のためにならない行為に積極的に関わることは難しいと言えるでしょう。

成年後見制度の詳細を詳しく知りたい方は「成年後見制度ガイド:我が子の未来を守るために【知的障害・精神障害のある子の親御さんへ】」をご覧ください。

親亡き後を見据えた備えとは?

では、私たち親は、どのように備えればいいのでしょうか?

残念ながら、成年後見制度の制限により、できることは限られています。しかし、事前に準備しておくことで、子どもへの影響を最小限に抑えることは可能です。

1. 任意後見契約を結ぶ

任意後見契約とは、将来、判断能力が不十分になった場合に備え、あらかじめ自分が信頼する人(任意後見人)に、自分の財産管理や身上監護を任せる契約のことです。

任意後見人は、配偶者や障害のない子ども、若い親族など、自分が信頼できる人であれば誰でも選任可能です。

2. 親代わりの準委任契約を結ぶ

任意後見契約に加え、信頼できる人と「親代わりの準委任契約」を結んでおくことも有効です。

これは、親が判断能力を失った場合、親に代わって子どものために必要なサポート(福祉事業者との連絡、施設への送迎など)を、契約相手が行うという内容の契約です。

この契約は、親が一人しかいない場合で、きょうだいなどの他の家族・親族の協力が得られない場合に特に必要となります。

3. 死後事務委任契約を結ぶ

死後事務委任契約とは、自分が亡くなった後の葬儀、埋葬などを、信頼できる人に依頼するための契約です。

相続手続きは、この契約の範囲外となります。 また、配偶者や障害のない子どもなど、近親者がいる場合は、これらの手続きを代わりにやってくれるので、死後事務委任契約は不要です。

3つの契約で安心を

これらの契約を結んでおくことで、親亡き後も、子どもが安心して生活できる環境を整えることが期待できます。

まとめ|早めの準備が安心につながる

今回は、障害のあるお子さんの親が認知症になった場合に備え、知っておくべきこと、そして具体的な対策について解説しました。

私自身も、正直、自分が認知症になるなんて想像もしたくありません。しかし、万が一の事態に備え、子どもが安心して暮らせるように、早めに対策を講じておくことが大切です。

この記事が、少しでも親御さんたちの不安解消に役立てば幸いです。

「もしも、私に何かあったら…」。障害のあるお子さんの将来を案じるあなたへ

弁護士 前園進也
弁護士 前園進也

重度知的障害のある子どもの父である私が具体的な対策を一緒に考えます。不安な気持ちを相談で聞かせてください。

記事URLをコピーしました