【数字で見る現実】知的障害者の親と同居率が高い理由とは?

はじめに
「障害のある子どもが、大人になっても一緒に暮らしていく…」
そう考える親御さんは少なくありません。実際、厚生労働省の調査によると、知的障害のある方の多くは、成人後も親と同居を続けているという結果が出ています。
なぜ、このような傾向が見られるのでしょうか?この記事では、その背景にある親御さんの想い、そして子離れへの不安について、具体的なデータと共にお伝えしていきます。
親との同居の割合
2022年3月末時点での療育手帳の所持者は、約125万人です1。厚生労働省の行なった「令和4年生活のしづらさなどに関する調査」によると、そのうちの約91%に当たる114万人(推計値)が在宅です。ここにいう在宅には、グループホームやショートステイの利用者も含まれています。
この調査は障害者の世帯の状況も調査しています。19歳から64歳の在宅の障害者手帳所持者のうち、親と同居していると答えている割合は次のとおりです2。療育手帳の所持者の68.5%が親と同居していると調査に回答しています。
身体障害者手帳 | 療育手帳 | 精神保健福祉手帳 |
---|---|---|
36% | 68.5% | 47% |
この結果からもわかるように、19歳から64歳の知的障害者の親との同居割合は、他の障害に比較して高いことがわかります。療育手帳の所持者全体でいうと約63%が親と同居していると考えられます。
親との同居を希望する理由
では、知的障害者が成人後も親と同居を続ける理由はどこにあるのでしょうか。
在宅の知的障害者の居住実態調査によると、親との同居を希望する理由は、多い順に次のとおりです3。
- 親と離れるのが不安 69.5%
- 家事をしてもらえる 62.6%
- 親同居が当たり前 35%
- グループホームに住みたくない 21.2%
子どもと離れるのが不安な理由
この調査については注意点があります。それは、親との同居継続と答えたアンケートの記入者は、重度において73.5%が親、9%が本人ということです4。つまり、重度の知的障害者自身が、親と離れるのが不安と回答したわけでないということには注意が必要です。
この調査結果を見て、障害のある子どもが親と離れるのが不安というのは、親が子どもと離れるのが不安という気持ちが反映されているのではと思いました。私自身が重度知的障害者の親なので、その気持ちはよくわかります。
子離れに対する不安として各家庭によって理由はさまざまだと思います。次のような心配、不安があるのではないでしょうか。
- 今までの子どものケアを同居している親が担っていた。同居しないとなると、今までの同程度のケアを子どもが受けられるか心配。
- 親の子に対するケアは愛情に裏付けられているもので、家族以外には愛情に裏付けられたケアは期待できない。
ただ、そうはいっても、いずれ親亡き後はやってきます。今まで親が担っていたケアの役割を代わりに担ってくれる人がいれば、子離れも十分可能なのではないでしょうか。
離れ難さ
知的障害のある子どもの世話を他人に委ねることが難しい実情について、ある研究者は「離れ難さ」と表現しています5。
まとめ
この記事では、統計・調査に基づきながら、知的障害のある方の多くが親と同居している現状、そして親御さんが抱える子離れへの不安について解説しました。
障害のある子どもの将来は、親であれば誰しもが不安を抱えるものです。この記事が、親御さんご自身の状況や想いを整理し、未来について考える一助となれば幸いです。
- 令和4年度福祉行政報告例の概況 ↩︎
- 令和4年生活のしづらさなどに関する調査 207p、213p、214p) ↩︎
- 糟谷・平山「在宅生活を送る知的障害者の居住実態」日本建築学会計画系論文集第85巻第776号2220ページ なお、複数回答の結果なので合計は100%にはなりません ↩︎
- 同上 ↩︎
- 染谷莉奈子「知的障害者のケアを引き受ける母親の消極的な側面」(2020年)、同「母親が経験する知的障害者の「自立生活」」(2023年)、同「母親はいかにして知的障害者のケアを担い続けているのか」(2024年、要約) ↩︎