親の役割を引き継ぐのは誰か――親亡き後の担い手

親亡き後の不安の正体と引き継ぎの必要性

「親亡き後、子どものことが心配だ」と感じている親御さんは多いと思います。その不安の正体は何でしょうか。子どものために親が担っている役割に着目すると、その正体が見えてきます。

知的障害のある子の親が担っている役割は、大きく4つに整理できます。

  1. 介助者――食事・入浴・排泄といった身の回りの世話にとどまらず、扶養・住居の提供・財産管理・障害のある子が引き起こした損害への対応まで含みます。
  2. 準専門家――専門家から教わったリハビリを家庭で続けたり、医療的なケアを担ったりすることです。
  3. コーディネーター――子どもの生活に必要なサービスや情報を集め、どれを利用するかを選び、関係者と連絡を取り合う調整役です。
  4. 代弁者――自分の気持ちや意思を周囲に伝えることが難しい子どもの代わりに、その意思を周囲に伝えたり、手続きを代わりに行ったりすることです。
親が担っている4つの役割(介助者・準専門家・コーディネーター・代弁者)を説明した図解

これだけ多くの役割をになっているのが親御さんです。不安の正体は、これらの役割が親亡き後に誰にも引き継がれないことへのおそれではないでしょうか。このおそれを減らす、なくしていくことが親亡き後の備えの本質であると私は考えます。

そのおそれを減らす、なくすためには、親が担っている役割を誰かが代わりにになってくれる必要があります。ただし、誰でもよいわけではありません。信頼できる第三者である必要があります。では、具体的に誰に引き継いでもらえばいいのでしょうか。ここでは、4つの役割それぞれの委譲先を示します。

なお、この記事は「親亡き後の備えの本質――知的障害のある子の親が担う4つの役割」を前提として書かれています。まだお読みでない方は、先にそちらをご覧ください。

第三者が親の代わりを担うには条件がある

親がになっている役割を第三者に引き継いでもらうといっても、誰でもできるわけではありません。親だから事実上認められていたことが、第三者には認められない場合があるからです。

たとえば、障害福祉サービスの利用契約は、本来は本人が事業者と締結するものです。しかし、文字が書けない、発語がほとんどないといった重度の知的障害がある場合、本人が契約を締結することは現実的ではありません。国もこの実態を認識しており、成年後見制度が十分に普及するまでの間は、本人が信頼している親などの家族が代わりに契約を締結することを事実上認めています1。なぜなら、本人による契約締結を杓子定規に求めれば、障害福祉サービスが必要な人に届かなくなってしまうからです。

しかし、親亡き後に第三者が同じことをしようとすると、話は変わります。「あなたは誰ですか。どのような権限がありますか。」と問われたとき、法的な権限や根拠を示せなければ、相手にされません。だからこそ、親や家族ではない第三者が親の担っていた役割を果たすためには、法的な根拠が必要です。

なお、きょうだいが親の役割を事実上担うことは可能です。しかし、うちの子のようにきょうだいがいない場合、きょうだいがいても協力が見込めない場合、あるいはきょうだいに負担をかけたくないという親御さんの思いがある場合も少なくありません。そのため、この記事ではきょうだいを役割の委譲先として取り上げていません。

誰がどの役割を引き継ぐのか――全体像

親の担っていた役割を引き継ぐことができる第三者は、役割によって異なります。以下の表に整理しました。

役割サブカテゴリ主な引き継ぎ先
介助者狭義の介助障害福祉サービス事業者
扶養親が残した資産
住居障害福祉サービス事業者/賃貸住宅/持ち家
財産管理障害福祉サービス事業者/社会福祉協議会/成年後見人
代償損害保険会社
準専門家病院・障害福祉サービス事業者
コーディネーター相談支援事業者+成年後見人
代弁者意思決定支援相談支援事業者+障害福祉サービス事業者+成年後見人
権利擁護・実現成年後見人

財産管理の代表的な3つの担い手については、別の記事で詳しく解説します。

親がになってきた役割のうち、代弁者の考え方が変わりつつあります。代弁は、本人の意思を置いてけぼりにしてしまうおそれがあります。そのため、世界の潮流は代弁から意思決定支援へと移っています。本人が自分で決められるよう支える、という考え方です。意思決定支援について詳しくは、別の記事および著書をご覧ください。

意思決定支援は、表明された意思が実現されなければ本人にとって意味がありません。しかし、障害福祉サービスでは提供できないものがあります。たとえば、一人暮らしをしたい、旅行に行きたい、日用品以外の物を購入したい、お酒を飲みに行くなどの社会通念上不適当とされるサービスを利用したいといった希望です。本人の判断能力が不十分な場合に、本人の代わりに動ける存在が必要です。そうした役割を果たせるのは、成年後見人です。

意思の実現は、権利擁護・実現の一部にすぎません。そのほかにも、グループホームや入所施設から追い出されそうになったとき、本人のために退去を阻止できる人が必要です。また、虐待や不当な扱いを受けたとき、それをやめさせるために動ける人もいなければなりません。親亡き後、そのような場面で本人のために全力を尽くすことを求められるのは、成年後見人2です。

中心的な担い手――障害福祉サービス事業者と成年後見人

ここまで4つの役割の委譲先を示しました。委譲先は役割によってさまざまです。その中で、障害福祉サービス事業者と成年後見人の2つが中心的な担い手であることがおわかりいただけると思います。なお、相談支援事業者は障害福祉サービス事業者に含めて考えています。この二つこそ、親亡き後の障害者を支える柱です。

障害福祉サービス事業者は、狭義の介助・準専門家・コーディネーターとして、障害者の日常生活を支える中心的な存在です。しかし、事業者が常に味方とは限りません。実際に私自身も、グループホームや短期入所先からの追い出し案件を受任することがあります。

ある調査3によると、グループホームを終の棲家と考えている親は36.5%にすぎません。入所施設とは異なり、さまざまな理由で退去を余儀なくされる可能性があることを、多くの親御さんが肌で感じているのではないでしょうか。

このような場面では、障害福祉サービス事業者は頼りになりません。トラブルの当事者ではない相談支援事業者なら頼りになりそうに思えます。本来であれば、利用者・家族の味方になるべきです。しかし、相談支援事業者は日常的に障害福祉サービス事業者と連携しながら仕事をしています。事業者を敵に回せば、今後のサービス調整に支障が出ます。結果として、利用者・家族の味方になりきれないのです。障害の程度にかかわらず、こうした場面で対応できるのは、本人の利益のために全力を尽くす義務がある成年後見人です。

相談支援専門員が利用者・家族と障害福祉サービス事業者の間で板挟みになっている状況を示した図解

このように、成年後見人は親亡き後の障害者を支える柱の1つです。しかし、個人が成年後見人になる場合には懸念があります。それは、一人の成年後見人が本人が亡くなるまで成年後見人であり続けられるとは限らないことです。続けられない理由として、高齢、病気、死亡など、さまざまな事情があります。そうなったとき、後任の成年後見人は本人のことをゼロから理解し直す必要があります。そのため、前任者と同じような支援ができるかどうかも、わかりません。これが継続性の問題です。だからこそ、単に成年後見人をつければよいという話ではありません。次の記事では、この継続性の問題とその対応策について詳しく解説します。

  1. 支援費制度の事務大要66ページ ↩︎
  2. 成年後見制度の改正が議論されており、改正後は補助人に一本化される見込みです。改正が確定した際には、本記事の内容を更新します。 ↩︎
  3. 全国障害者の暮らしの場を考える会・田中智子(佛教大学)・深谷弘和(天理大学)『障害のある人の暮らしと家族の健康・暮らしの調査 結果概要』(2025年) ↩︎

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