信託

信託で安心!知的障害のある子どものための財産管理・相続対策

知的障害のある子の安心、信託で備えませんか?
前園 進也
前園 進也
前園 進也
弁護士
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重度知的障害児の父親
埼玉弁護士会・サニープレイス法律事務所所属

障害者の親亡き後や障害福祉について、障害者の親&弁護士の視点から役立つ情報を発信しています。法律相談もできますので、お気軽にお問い合わせください。
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知的障害のある子どもに残せる?信託でできること

「もしも自分に何かあったら、この子は一人で生きていけるのだろうか…」

障害のある子どもを持つ親なら、誰もが抱える不安ではないでしょうか。大切な子どもに、安心して暮らしていける未来を残したい。そのためには、親亡き後、子どもが生活していくためのお金の残し方について、しっかりと考えておく必要があります。

障害者の親亡き後の備えとして、親の財産を残す主な方法は、次の4つです。

  1. 遺言
  2. 信託
  3. 贈与
  4. 生命保険

ここでは、2の信託について、その仕組み、メリットとデメリットについて解説します。これら4つの方法の中でも、信託が一番馴染みが薄いかと思います。遺言は書いたことや見たことはなくても、存在自体は知っている人は多いはずです。また、贈与と生命保険は、日常生活で触れる機会や実際に行う機会は少なくありません。しかし、信託という言葉は、「信託銀行」「投資信託」という言葉を聞いたことがある程度の人が大半なのではないかと思います。そのため、信託については、その仕組みからできるだけわかりやすく解説します。

信託とは、自分の財産を、人に託して、その財産の管理や処分を任せることです。これだけだと漠然としていてよくわからないと思います。障害者の親亡き後の備えとして、信託を使えば具体的にどのようなことができるかを示します。

例えば、金銭管理が苦手な障害者に、多額のお金を残すと、無駄遣いをしたり、誰か悪い人に騙し取られたりするかもしれません。そのような心配から、一度にたくさんのお金を残すのではなく、毎月○万円という形で分けてお金を残したいという親御さんもいるかと思います。親の財産を分割して渡すというのは遺言では難しいです。が、信託であればできます。このような残し方は信託を利用すれば実現できます。

自宅不動産を所有している親御さんで、自分たちが死んだあとは、その自宅不動産を他人に貸して、その賃料を障害のある子どもの収入に当てたい、しかし、障害のある子どもが大家になって自宅不動産を管理するのは難しいので、希望していても諦めている親御さんもいるかもしれません。しかし、信託を使えば、自宅不動産の管理はほかの人に任せて、家賃(から管理費用を引いたお金)を障害のある子どもが毎月受けとるということができます。

信託は自分の財産を残す方法として、かなり自由度が高いので、他にも活用方法がたくさんあります。先ほど紹介した不動産を他人に貸して、障害のある子が賃料を受け取る活用方法ですか、配偶者が生きている間は、配偶者が賃料を受け取り、配偶者の死後は障害のある子どもが受け取るということができます。

さらに、障害のある子どもが一人っ子で、配偶者や子がいない場合、一人っ子の障害者が亡くなったら、その自宅不動産を相続する人がいません。相続人がいない人の遺産は売却されて国のものになります(民法959条)。国のものになるのはもったいないので、一人っ子の障害者が亡くなった後は、その自宅不動産を他の人に渡すことができます。例えば、その自宅不動産を管理してくれていた人や、障害のある子どもを亡くなるまで支援してくれた障害福祉サービス事業者や障害者団体に渡したりすることも、信託であれば可能です。

このように信託は、アイディア次第でいろんなことが可能です。障害者やその家族の状況は十人十色です。信託であれば、それぞれの家庭の事情に合せてカスタマイズできる柔軟さが信託の魅力です。

なお、障害者の親亡き後の備えは、財産のこと以外にも、考えるべきことがたくさんあります。「障害者の親亡き後の備え 7つのステップ【弁護士解説】」のページでは、7つのステップで全体像を解説しています。

信託の仕組みと登場人物(委託者・受託者・受益者)の関係

これまでの信託に関する説明で、なんか良さそうだなと持った人も少なくないと思います。これから信託の仕組みについて、図を用いて解説します。

信託には、次の3人の人物が登場します。

  1. 委託者
  2. 受託者
  3. 受益者

「委託者」は、財産を所有し、それを託す人のことです。その財産を託される人を「受託者」といいます。そして、その財産から生じる利益を受ける人を「受益者」といいます。

誰が誰のためにお金を託す?委託者と受益者の関係

障害者の親亡き後の備えとして信託を利用する場合、委託者が障害者の親、受益者が障害のある子どもというのが多いでしょう。このような信託のことを「福祉型信託」と呼ぶこともあります。

受益者は、複数でも構いませんし、その中で順番をつけることができます。例えば、委託者が生きている間は委託者=受益者、委託者が亡くなったときに配偶者が生きていれば、その配偶者を2番目の受益者、その配偶者が亡くなった後は障害者を3番目の受益者ということもできます。このようなことは、遺言ではできません。

受託者ってどんな人がなれるの?役割と選び方のポイント

受託者は、信託銀行か信託会社、もしくは委託者の家族・親族がなるのが一般的です。信託銀行や信託会社のように営利目的の企業が受託者になる信託を「商事信託」といいます。商事信託は営利企業が受託者ですので、財産を託す場合には、管理や処分の費用のほかに、信託報酬を支払わなければなりません。信託は長期間にわたるものが多く、また、託される財産も高額のものが多いです。そのため、誰でも簡単に信託業を行うことはできません。信託業を行うために、内閣総理大臣の免許または登録を受けなければなりません(信託業法3条同法7条)。

他方、委託者の家族・親族が受託者になる信託を「民事信託」とか「家族信託」といいます。民事信託の場合、商事信託とは異なり、信託報酬が必須というわけではありません。家族という理由で信託報酬なし(無償)というケースは少なくありません。

ただし、福祉型信託の場合には、無償でいいかはじっくり検討する必要があります。受益者である障害者に健常者の兄弟姉妹(以下「きょうだい」とします。)がいる場合、障害者の親である委託者は、受託者としてきょうだいをあてにすることがあります。

しかし、受託者が委託者の配偶者(障害者の親)である場合ならまだしも、きょうだいが受託者になる場合は、月1万円程度でも信託報酬を渡した方がいいです。受託者は責任をもって信託財産を管理・処分しなければなりませんので、家族の情愛だけで簡単にできるものではないからです。

では、障害福祉サービス事業を行なっている社会福祉法人、NPO法人などの非営利団体、私のような弁護士のような法律専門家は、受託者になれるでしょうか。受託者の業務を営利事業として行う場合には、信託業法などの法律によって、国から認められた信託会社や信託銀行しかできません。したがって、非営利団体や弁護士が受託者になって、報酬をもらうことはできません。一般的に、非営利団体であっても、無償で財産管理業務を受けることは考えにくいため、非営利団体や弁護士が受託者になることはできません。

ただし、今後も受託者になれないかというとそうとは言い切れません。信託法が大幅に改正された際に、非営利団体や弁護士が受託者になれることは今後の課題として確認されていました。ですので、信託の利用者の声によって、非営利団体や弁護士が受託者になれるように信託法が改正されることはあります。

私個人としては、非営利団体や弁護士が受託者になれるように法改正をしてほしいと希望しています。それは、私が弁護士として受託者になりたいということではなく、我が家の親亡き後の備えとして、信託を利用したいと思っても、現時点では、信託を利用することは難しい状態だからです。私は自宅(不動産)を所有していますが、商事信託は不動産を扱わないのが一般的です。また、私の子どもは一人っ子なので、きょうだいに受託者になってもらうことができません。弁護士であれば不動産の管理には慣れていることから、弁護士が受託者になれるようになると、私の不動産を信託する可能性が高まります。

障害のある子どもが契約に関与しないメリット

信託は、委託者、受託者、受益者の三者が当事者になります。ただし、信託の設定自体は、委託者と受託者との間の信託契約によって成立します。つまり、信託の設定には、受益者は関与しません。この点も、障害のある子どもがいる親や家族にとってはありがたいポイントです。

信託財産とは?お金以外に託せるもの

信託の対象となる財産のことを「信託財産」といいます。信託財産になる財産について特に制限はありません。プラスの財産だけではなく、マイナスの財産も信託財産にすることは可能です。

もっとも、信託は、委託者と受託者の契約なので、ある特定の財産について、信託財産としないこともできます。そのため、信託銀行や信託会社が受託者の場合、家賃収入のある収益不動産は信託財産とすることはできても、自宅不動産については信託財産とすることを拒否されることが少なくありません。また、お金を信託財産にする場合、少額ではダメで、1000万円以上などの基準をクリアしないと、受託者になってもらえないということもあります。

そして、信託の重要な特徴の一つとして、信託が成立すると、信託財産の名義を、委託者から受託者に変更します。具体的には、不動産であれば登記名義が受託者になり、お金は受託者が管理することになります。

もっとも、この名義の変更、管理の移行は、受託者の信託財産の管理・処分をスムーズに行うための形式的なもので、受託者は信託財産を好き勝手に処分できるわけではありません。

信託監督人と受益者代理人:不正やトラブルから財産を守る

しかし、受託者が信託財産を好き勝手に処分はできないとしても、不動産の名義や金銭の管理が受託者になるため、受託者は受益者のためにではなく自分の利益のために信託財産を使ったり、信託の目的から外れることのために信託財産を利用したりすることも現実的には可能です。信託は、成年後見制度とは違って裁判所が監督することにはなっていません。

基本的には、委託者や信託によって利益を得る受益者自身が受託者の職務が適切になされているか監督・監視をすることになります。

しかし、委託者が亡くなった後や、受益者が未成年や、判断能力に問題のある障害者の場合、受益者として適切な監督・監視は難しいです。

そこで、受託者が適切に受託者としての職務を行なっているか監督・監視する人を信託契約で設定することができます。それが信託監督人(信託法131条以下)と受益者代理人(信託法138条以下)です。信託監督人と受益者代理人は法的には違いはありますが、受益者を保護するという目的があることと、信託契約で定めることができることは共通しています。

目的別に選べる!知的障害のある子のために役立つ信託の種類

以上が信託の基本的な仕組みの解説でした。最後に、信託を利用した商品・サービスついて、簡単に紹介します。

特定贈与信託:節税対策で賢く財産を贈与

特定贈与信託とは、受益者が障害者、受託者が信託銀行・信託会社に限定されている信託で、信託財産から受益者に定期的なお金が支払われます(相続税法21条の4、同法施行令4条の7〜20)。

この信託を利用すると、最大で6000万の信託財産について贈与税がかかりません。障害のある子どもに財産を残す場合、財産の額によって相続税、贈与税がかかる場合があります。この特定贈与信託を利用すると、納税のために財産が目減りすることを避けることができます。

特定贈与信託の利用条件や手続きについて、詳しくはこちら

生命保険信託:保険金を安心して託す仕組み

生命保険信託は、死亡保険金を信託財産とする信託です。一部の生命保険会社と信託銀行・信託会社が提携して提供しているサービスです。

障害のある子どもを死亡保険金の受取人にするという形で、親の財産を残すことができます。ただ、その場合、障害のある子どもが生命保険金の請求をしなければなりません。そのため、サポートがあっても生命保険金の請求が難しい障害者の場合、死亡保険金を受け取ることができません。しかし、生命保険信託を利用すれば、信託銀行・信託会社が生命保険会社に死亡保険金を請求して、信託契約に基づいて、受益者である障害者にお金を支払います。

また、死亡保険金は被保険者が亡くなったときに、受け取ることができます。しかし、生命保険信託は、被保険者がが亡くなる前に、障害のある子どもが亡くなった場合に、2番目の受益者を設定したり、残った死亡保険金を寄付に回したりすることもできます。

遺言代用信託:遺言の代わりに信託を活用するメリット

遺言代用信託は、その名のとおり、遺言の代用として利用する信託のことです。遺言代用信託は、次のような仕組みです。委託者が生きている間は委託者=受益者として、信託財産からの利益は委託者が得ます。

委託者が死亡したときに、受益者を他の人(多くの場合は配偶者や子などの法定相続人)に移るようにすることで、遺言で財産を残すのと同様の結果になります。

そして、遺言代用信託は遺言ではなく信託なので、遺言ではできない信託の利点も活用できます。例えば、遺言の場合は、お金を分割して渡すことはできませんが、信託であれば分割して渡すこともできます。

また、信託財産がなくなる前に、受益者が亡くなったら、次の受益者に権利を移すこともできます。例えば、受益者である配偶者が亡くなった後は、障害のある子どもを受益者にするということもできます。

\我が子の未来のために、今できることを/

弁護士 前園進也
弁護士 前園進也

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