信託で安心!知的障害のある子どものための財産管理・相続対策

知的障害のある子どもに残せる?信託でできること

「もしも自分に何かあったら、この子は一人で生きていけるのだろうか…」

障害のある子どもを持つ親なら、誰もが抱える不安ではないでしょうか。大切な子どもに、安心して暮らしていける未来を残したい。そのためには、親亡き後、子どもが生活していくためのお金の残し方について、しっかりと考えておく必要があります。

障害者の親亡き後の備えとして、親の財産を残す主な方法は、次の4つです。

  1. 遺言
  2. 信託
  3. 贈与
  4. 生命保険

ここでは、2の信託について、その仕組み、メリットとデメリットについて解説します。これら4つの方法の中でも、信託が一番馴染みが薄いかと思います。遺言は書いたことや見たことはなくても、存在自体は知っている人は多いはずです。また、贈与と生命保険は、日常生活で触れる機会や実際に行う機会は少なくありません。しかし、信託という言葉は、「信託銀行」「投資信託」という言葉を聞いたことがある程度の人が大半なのではないかと思います。そのため、信託については、その仕組みからできるだけわかりやすく解説します。

信託とは、自分の財産を、人に託して、その財産の管理や処分を任せることです。これだけだと漠然としていてよくわからないと思います。障害者の親亡き後の備えとして、信託を使えば具体的にどのようなことができるかを示します。

例えば、金銭管理が苦手な障害者に、多額のお金を残すと、無駄遣いをしたり、誰か悪い人に騙し取られたりするかもしれません。そのような心配から、一度にたくさんのお金を残すのではなく、毎月○万円という形で分けてお金を残したいという親御さんもいるかと思います。親の財産を分割して渡すというのは遺言では難しいです。が、信託であればできます。このような残し方は信託を利用すれば実現できます。

自宅不動産を所有している親御さんで、自分たちが死んだあとは、その自宅不動産を他人に貸して、その賃料を障害のある子どもの収入に当てたい、しかし、障害のある子どもが大家になって自宅不動産を管理するのは難しいので、希望していても諦めている親御さんもいるかもしれません。しかし、信託を使えば、自宅不動産の管理はほかの人に任せて、家賃(から管理費用を引いたお金)を障害のある子どもが毎月受けとるということができます。

信託は自分の財産を残す方法として、かなり自由度が高いので、他にも活用方法がたくさんあります。先ほど紹介した不動産を他人に貸して、障害のある子が賃料を受け取る活用方法ですか、配偶者が生きている間は、配偶者が賃料を受け取り、配偶者の死後は障害のある子どもが受け取るということができます。

さらに、障害のある子どもが一人っ子で、配偶者や子がいない場合、一人っ子の障害者が亡くなったら、その自宅不動産を相続する人がいません。相続人がいない人の遺産は売却されて国のものになります(民法959条)。国のものになるのはもったいないので、一人っ子の障害者が亡くなった後は、その自宅不動産を他の人に渡すことができます。例えば、その自宅不動産を管理してくれていた人や、障害のある子どもを亡くなるまで支援してくれた障害福祉サービス事業者や障害者団体に渡したりすることも、信託であれば可能です。

このように信託は、アイディア次第でいろんなことが可能です。障害者やその家族の状況は十人十色です。信託であれば、それぞれの家庭の事情に合せてカスタマイズできる柔軟さが信託の魅力です。

なお、障害者の親亡き後の備えは、財産のこと以外にも、考えるべきことがたくさんあります。「障害者の親亡き後の備え 7つのステップ【弁護士解説】」のページでは、7つのステップで全体像を解説しています。

信託の仕組みと登場人物(委託者・受託者・受益者)の関係

これまでの信託に関する説明で、なんか良さそうだなと持った人も少なくないと思います。これから信託の仕組みについて、図を用いて解説します。

信託には、次の3人の人物が登場します。

  1. 委託者
  2. 受託者
  3. 受益者

「委託者」は、財産を所有し、それを託す人のことです。その財産を託される人を「受託者」といいます。そして、その財産から生じる利益を受ける人を「受益者」といいます。

障害のある子どもを持つ親が信託を設定する仕組みを示した図。親(財産を持っている人)が信頼できる人(財産を管理する人)に財産を託し、その信頼できる人が子ども(利益を受け取る人)に利益を渡す流れを示している。

誰が誰のためにお金を託す?委託者と受益者の関係

障害者の親亡き後の備えとして信託を利用する場合、委託者が障害者の親、受益者が障害のある子どもというのが多いでしょう。このような信託のことを「福祉型信託」と呼ぶこともあります。

受益者は、複数でも構いませんし、その中で順番をつけることができます。例えば、委託者が生きている間は委託者=受益者、委託者が亡くなったときに配偶者が生きていれば、その配偶者を2番目の受益者、その配偶者が亡くなった後は障害者を3番目の受益者ということもできます。このようなことは、遺言ではできません。

受託者ってどんな人がなれるの?商事信託と民事信託

受託者は、信託銀行・信託会社(商事信託)か、家族・親族(民事信託)がなるのが一般的です。信託業を営むには国の免許または登録が必要なため、誰でも引き受けられるわけではありません。

では、弁護士や社会福祉法人、NPO法人は受託者になれるのでしょうか。これらが報酬を得て受託者になるには、信託会社などと同じく国の許可が必要です。そのため、現時点では受託者になることができません。私個人としても、この点が我が家の親亡き後の備えとして信託を活用する上での壁になっています。受託者になれる人となれない人の詳細については、「信託の受託者になれるのは誰?商事信託と民事信託の違い」で詳しく解説しています。

委託者の家族・親族が受託者になる信託を「民事信託」とか「家族信託」といいます。民事信託の場合、商事信託とは異なり、信託報酬が必須というわけではありません。家族という理由で信託報酬なし(無償)というケースは少なくありません。

ただし、福祉型信託の場合には、無償でいいかはじっくり検討する必要があります。受益者である障害者に健常者の兄弟姉妹(以下「きょうだい」とします。)がいる場合、障害者の親である委託者は、受託者としてきょうだいをあてにすることがあります。

障害のある子どもが契約に関与しないメリット

信託は、委託者、受託者、受益者の三者が当事者になります。ただし、信託の設定自体は、委託者と受託者との間の信託契約によって成立します。つまり、信託の設定には、受益者は関与しません。この点も、障害のある子どもがいる親や家族にとってはありがたいポイントです。

信託財産とは?お金以外に託せるもの

信託の対象となる財産のことを「信託財産」といいます。信託財産になる財産について特に制限はありません。プラスの財産だけではなく、マイナスの財産も信託財産にすることは可能です。

もっとも、信託は、委託者と受託者の契約なので、ある特定の財産について、信託財産としないこともできます。そのため、信託銀行や信託会社が受託者の場合、家賃収入のある収益不動産は信託財産とすることはできても、自宅不動産については信託財産とすることを拒否されることが少なくありません。また、お金を信託財産にする場合、少額ではダメで、1000万円以上などの基準をクリアしないと、受託者になってもらえないということもあります。

そして、信託の重要な特徴の一つとして、信託が成立すると、信託財産の名義を、委託者から受託者に変更します。具体的には、不動産であれば登記名義が受託者になり、お金は受託者が管理することになります。

もっとも、この名義の変更、管理の移行は、受託者の信託財産の管理・処分をスムーズに行うための形式的なもので、受託者は信託財産を好き勝手に処分できるわけではありません。

信託監督人と受益者代理人:不正やトラブルから財産を守る

しかし、受託者が信託財産を好き勝手に処分はできないとしても、不動産の名義や金銭の管理が受託者になるため、受託者は受益者のためにではなく自分の利益のために信託財産を使ったり、信託の目的から外れることのために信託財産を利用したりすることも現実的には可能です。信託は、成年後見制度とは違って裁判所が監督することにはなっていません。

基本的には、委託者や信託によって利益を得る受益者自身が受託者の職務が適切になされているか監督・監視をすることになります。

しかし、委託者が亡くなった後や、受益者が未成年や、判断能力に問題のある障害者の場合、受益者として適切な監督・監視は難しいです。

そこで、受託者が適切に受託者としての職務を行なっているか監督・監視する人を信託契約で設定することができます。それが信託監督人(信託法131条以下)と受益者代理人(信託法138条以下)です。信託監督人と受益者代理人は法的には違いはありますが、受益者を保護するという目的があることと、信託契約で定めることができることは共通しています。

目的別に選べる!知的障害のある子のために役立つ信託の種類

以上が信託の基本的な仕組みの解説でした。最後に、信託を利用した商品・サービスついて、簡単に紹介します。

特定贈与信託:節税対策で賢く財産を贈与

特定贈与信託とは、受益者が障害者、受託者が信託銀行・信託会社に限定されている信託で、信託財産から受益者に定期的なお金が支払われます(相続税法21条の4、同法施行令4条の7〜20)。

この信託を利用すると、最大で6000万の信託財産について贈与税がかかりません。障害のある子どもに財産を残す場合、財産の額によって相続税、贈与税がかかる場合があります。この特定贈与信託を利用すると、納税のために財産が目減りすることを避けることができます。

特定贈与信託の利用条件や手続きについて、詳しくはこちら

生命保険信託:保険金を安心して託す仕組み

生命保険信託は、死亡保険金を信託財産とする信託です。一部の生命保険会社と信託銀行・信託会社が提携して提供しているサービスです。

障害のある子どもを死亡保険金の受取人にするという形で、親の財産を残すことができます。ただ、その場合、障害のある子どもが生命保険金の請求をしなければなりません。そのため、サポートがあっても生命保険金の請求が難しい障害者の場合、死亡保険金を受け取ることができません。しかし、生命保険信託を利用すれば、信託銀行・信託会社が生命保険会社に死亡保険金を請求して、信託契約に基づいて、受益者である障害者にお金を支払います。

また、死亡保険金は被保険者が亡くなったときに、受け取ることができます。しかし、生命保険信託は、被保険者がが亡くなる前に、障害のある子どもが亡くなった場合に、2番目の受益者を設定したり、残った死亡保険金を寄付に回したりすることもできます。

遺言代用信託:遺言の代わりに信託を活用するメリット

遺言代用信託は、その名のとおり、遺言の代用として利用する信託のことです。遺言代用信託は、次のような仕組みです。委託者が生きている間は委託者=受益者として、信託財産からの利益は委託者が得ます。

委託者が死亡したときに、受益者を他の人(多くの場合は配偶者や子などの法定相続人)に移るようにすることで、遺言で財産を残すのと同様の結果になります。

そして、遺言代用信託は遺言ではなく信託なので、遺言ではできない信託の利点も活用できます。例えば、遺言の場合は、お金を分割して渡すことはできませんが、信託であれば分割して渡すこともできます。

また、信託財産がなくなる前に、受益者が亡くなったら、次の受益者に権利を移すこともできます。例えば、受益者である配偶者が亡くなった後は、障害のある子どもを受益者にするということもできます。

信託のメリットとデメリット:利用前に知っておくべきこと

メリット

遺言よりも柔軟な財産承継が実現できます。障害のある子どもの状況に合わせて「毎月○万円ずつ渡す」「不動産を賃貸に出して家賃を渡す」といった細かな設定が可能です。

デメリット

信頼できる受託者を見つけるのが難しい点が最大のハードルです。また、信託契約書の作成には専門家(弁護士・司法書士等)への依頼が必要となるため、初期費用がかさむ傾向があります。

さらに注意したいのは、「信託を使えば成年後見制度は不要」という誤解です。実際には信託と成年後見制度が補い合う場面も多く、信託だけで親亡き後の備えが完結するわけではありません。

信託、我が家には向いている?弁護士個人の見解

信託が特に有効なのは、次のような家庭です。

  1. 協力的なきょうだいがいる(民事信託の受託者として頼める)
  2. 収益物件(賃貸不動産等)を所有している

逆に、私自身の話をすると、現時点では信託を利用する予定はありません。うちの子は一人っ子で受託者を頼める親族がいないこと、また自宅不動産は収益物件ではないため、商事信託(信託銀行)に引き受けてもらえる可能性が低いためです。

信託は家庭の状況によって向き・不向きがはっきり分かれる制度です。「自分の家族には合うのか?」と迷われる方は、個別相談もお受けしていますので、お気軽にお問い合わせください。

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