障害福祉

意思決定支援の法的根拠とは? 障害福祉サービス事業者必見の最新動向

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前園 進也
前園 進也
前園 進也
弁護士
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重度知的障害児の父親
埼玉弁護士会・サニープレイス法律事務所所属

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意思決定支援をしなければならない理由

障害福祉サービス事業者または計画相談支援事業者のみなさま、日頃より利用者の方々への支援に尽力されていることと存じます。近年、利用者の意思決定支援の重要性が高まっていますが、皆様の現場ではどのように取り組まれているでしょうか?

「利用者の意思を尊重したい」「自己決定を支援したい」という思いは強くても、具体的にどのように実践すべきか、悩まれている方も多いのではないでしょうか。

本記事では、障害福祉サービス事業者および計画相談支援事業者が意思決定支援をしなければならない法的根拠について、わかりやすく解説します。憲法から最新の指定基準まで、順を追って説明していきますので、皆様の日々の業務に役立てていただければ幸いです。

意思決定支援は、単なる理想や努力目標ではありません。これから説明する法的根拠を理解することで、皆様の支援の質をさらに高め、利用者の権利を守ることにつながるはずです。それでは、具体的な法令の解説に入っていきましょう。

法令上の規定

日本国憲法

日本の法令の中で最も強い効力があるものは、みなさんご存知のように日本国憲法です。効力が強いとは、それに反する法令は作れないという意味です。しかし、日本国憲法には障害者について直接規定するものはありません。

障害者権利条約12条

憲法の次に効力が強い法令として国際条約があります。条約といっても、すべての条約ではなく、日本国は締結した条約に限られます。

障害者に関する国際条約として有名なものとして障害者権利条約があります。この条約は、障害者の人権及び基本的自由の享有を確保し、障害者の固有の尊厳の尊重を促進することを目的として、障害者の権利の実現のための措置等について定める条約です。

この条約は2006年に国連で採択されて2008年に発行されました。日本は2007年にこの条約について、基本的な賛成を表明し、条約に署名しました。2014年には、国会の承認を得て、この条約を批准しました。批准とは、条約に拘束されることに同意し、それを表明する方法の1つです。

障害者権利条約の中で、意思決定支援に関する部分は12条で、特に2、3、4が意思決定支援に関係する部分です。12条のポイントは次のようにまとめられます。障害者権利条約を締結した国に対して、次のことを求めています。

  1. 障害者は健常者と平等な法的能力を享有することを認めること
  2. 障害者がその法的能力を行使する際に必要となる支援を利用できるようにすること
  3. その必要な支援を利用する際は、意思と選好を尊重させること

次に、今の述べた、この条約が求めていることが、日本の法律にどのように反映されているかを見ていきます。

障害者基本法

障害者基本法は、障害者に関する国の制度、政策等の基本方針が示されています。この障害者基本法には意思決定支援についてどのように定められているでしょうか。2011年に障害者基本法23条1項に「意思決定の支援」という言葉が入りました。

(相談等)
第二十三条 国及び地方公共団体は、障害者の意思決定の支援に配慮しつつ、障害者及びその家族その他の関係者に対する相談業務、成年後見制度その他の障害者の権利利益の保護等のための施策又は制度が、適切に行われ又は広く利用されるようにしなければならない。

このように障害者基本法23条1項は、国と地方公共団体に対して、障害者の意思決定の支援に配慮しつつ、障害者などに対する政策や制度を作ることを求めています。

障害者総合支援法

障害福祉サービス事業者などに直接関係する法律である障害者総合支援法には意思決定支援についてどのように定められているでしょうか。

2013年に意思決定支援という言葉は、障害者総合支援法42条1項同法51条の22第1項に入りました。前者は指定障害福祉サービス事業者に向けたもので、後者は相談支援事業者に向けたものです。ただ、ほぼ同じ内容なので42条の方を紹介します。

(指定障害福祉サービス事業者及び指定障害者支援施設等の設置者の責務)
第四十二条 指定障害福祉サービス事業者及び指定障害者支援施設等の設置者(以下「指定事業者等」という。)は、障害者等が自立した日常生活又は社会生活を営むことができるよう、障害者等の意思決定の支援に配慮するとともに、市町村(中略)、教育機関その他の関係機関との緊密な連携を図りつつ、障害福祉サービスを当該障害者等の意向、適性、障害の特性その他の事情に応じ、常に障害者等の立場に立って効果的に行うように努めなければならない。


このように障害者総合支援法は指定障害福祉サービス事業者と計画相談支援事業者に対して、障害者等の意思決定の支援に配慮するとともに、障害福祉サービスを提供することを求められています。

ガイドラインの作成

障害者総合支援法42条等に意思決定の支援に配慮するという言葉が入り、国は障害者の意思決定支援のあり方について検討を始めました。その検討の結果、厚生労働省は2017年に「障害福祉サービスの利用等にあたっての意思決定支援ガイドライン」(以下、単に「ガイドライン」とします)を公表しました。

ご存知の方もいると思いますが、意思決定支援のガイドラインは、これだけではありません。このガイドラインが公表されたのちに、国は以下の4つのガイドラインが作成・公表しました。

  1. 2018年「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン
  2. 2018年「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン
  3. 2019年「身寄りがない人への入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン
  4. 2020年「意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン

このガイドラインは、法令というわけではありません。したがって、法令としての強制力はありません。そのため、障害福祉サービス事業者などがこのガイドラインと異なる意思決定支援をすること自体は特に問題はありません。もっとも、国のガイドラインですので、これを無視して意思決定支援を考えることは現実的ではありません。

次に説明しますが、2024年4月からこのガイドラインの内容が障害福祉サービス事業の指定基準に反映されることになりました。そのため、ガイドラインの内容の一部は、法令として強制力を持つようになりました。

指定基準

障害福祉サービスの指定を受けるためには、都道府県や政令指定都市などが条例で定める指定基準を満たさなければなりません。この条例は、国の定める指定基準1に従わなければならないので、ここでは、その国の基準を紹介します。障害福祉サービス事業者と計画相談支援事業者についてそれぞれ紹介します。

具体的取扱方針

指定基準25条は、具体的な取扱方針について定めていて、その2号に「意思決定の支援」という言葉があります。この規定は2024年4月に新たに追加されました。

(指定居宅介護の具体的取扱方針)

第25条 指定居宅介護事業所の従業者が提供する指定居宅介護の方針は、次の各号に掲げるところによるものとする。
一 中略
二 指定居宅介護の提供に当たっては、利用者が自立した日常生活又は社会生活を営むことができるよう、利用者の意思決定の支援に配慮すること

この25条は居宅介護に関する規定ですが、その他の障害福祉サービスについてはこの25条を準用しているので、就労継続支援や共同生活援助などでも同じです。

この規定が新設させれたことで、障害福祉サービス事業者はサービス提供にあって利用者の意思決定の支援に配慮することが必要になりました。

計画相談支援事業の指定基準にも同様の規定が新設されました2

サービス提供責任者・サービス管理責任者の責務

指定基準30条は、サービス提供責任者・サービス管理責任者の責務についての規定していて、「意思決定の支援」という言葉があります。この規定も2024年4月に新たに追加されました。

(管理者及びサービス提供責任者の責務)

第30条

(中略)

4 サービス提供責任者は、業務を行うに当たっては、利用者の自己決定の尊重を原則とした上で、利用者が自ら意思を決定することに困難を抱える場合には、適切に利用者への意思決定の支援が行われるよう努めなければならない

この規定も新しく加わりました。

この30条も居宅介護のサービス提供責任者の責務に関する規定ですが、他のサービスも準用しているので、サービス管理責任者も同じになります。

この規定は最後のところに「努めなければならない。」とあります。これは努力義務と呼ばれるものです。努力義務は法的な義務ではあるものの、義務違反に対するペナルティはないものをいいます。

ですので、サービス提供責任者やサービス管理責任者は意思決定支援が行われるように努める必要はあります。ただし、実際に支援が行われなったとしてもそのことを理由に不利益を課されることは、現時点ではないです。

もっとも、これは現時点ですので、「努めなければならない。」が「行われなければならない。」に変更されることも十分あり得ます。その結果、意思決定支援をしないことと、たとえば報酬が減算されるということが、将来的にあるかもしれません。

個別支援計画の作成

指定基準58条は、個別支援計画の作成について規定しています。2024年4月に、この規定の中に3か所に意思決定支援に関する規定が加わりました。

(療養介護計画の作成等)

第五十八条 (中略)

2 サービス管理責任者は、療養介護計画の作成に当たっては、適切な方法により、利用者について、その有する能力、その置かれている環境及び日常生活全般の状況等の評価を通じて利用者の希望する生活や課題等の把握(以下この章において「アセスメント」という。)を行うとともに、利用者の自己決定の尊重及び意思決定の支援に配慮しつつ、利用者が自立した日常生活を営むことができるように支援する上での適切な支援内容の検討をしなければならない。

3 アセスメントに当たっては、利用者が自ら意思を決定することに困難を抱える場合には、適切に意思決定の支援を行うため、当該利用者の意思及び選好並びに判断能力等について丁寧に把握しなければならない。

(中略)

6 サービス管理責任者は、療養介護計画の作成に係る会議(利用者及び当該利用者に対する指定療養介護の提供に当たる担当者等を招集して行う会議をいい、テレビ電話装置等を活用して行うことができるものとする。)を開催し、当該利用者の生活に対する意向等を改めて確認するとともに、前項に規定する療養介護計画の原案の内容について意見を求めるものとする。

繰り返しになりますが、58条は療養介護の個別支援計画の規定ですが、他のサービスについても準用されていますので、他の障害福祉サービスの個別支援計画にも適用されます。

これらの規定から、個別支援計画を作成する際には、利用者の自己決定、意思決定が難しい人には意思決定支援をして、支援内容を検討することが求められるようになりました。

そして、アセスメントをする際に、利用者の意思などの把握が求めらることになりました。

さらに、個別支援計画の作成のための会議に利用者の出席を求める規定の改正がありました。従前、個別支援計画の作成のために、サービス提供の担当者などを集める会議を開催し、個別支援計画の原案について意見を求めることが必要でした。この会議には利用者の参加は求められていませんでした。しかし、2024年4月からこの会議について利用者の参加が求められて、さらに、利用者の生活に対する意向等を改めて確認することを求める規定が加えられました。

なお、個別支援計画についての規定は、「努めなければならない」というような文言がないことにはご注意ください。

相談支援専門員によるサービス等利用計画の作成についても、同様の改正がなされました3

まとめ

2024年4月の指定基準の改正により、個別支援計画やサービス等利用計画の作成において、利用者の自己決定の尊重と意思決定が困難な障害者に対しては意思決定支援をすることが求められるようになりました。

今回の指定基準の改正では、サービス提供責任者・サービス管理責任者、相談支援専門員以外の職員について、意思決定の支援をすることを直接求める規定はありません。ただ、利用者に対するサービスの提供の担当者は、出席する個別支援計画やサービス等利用計画の作成のための会議で、意思決定支援が行われることになるので、サービス提供責任者・サービス管理責任者、相談支援専門員以外の職員にとっても無関係ではありません。むしろ、充実した意思決定支援を行うには、サービス提供の現場での利用者の様子や言動が重要になります。それを目の当たりにする機会が多いのは責任者より現場の職員だと思います。

以上が、簡単にですが、指定を受けている障害福祉サービス事業者や計画相談支援事業者が意思決定支援をしなければならない法的根拠について紹介しました。

  1. 1 「障害者総合支援法に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準」や「障害者総合支援法に基づく指定計画相談支援の事業の人員及び運営に関する基準↩︎
  2. 2 障害者総合支援法に基づく指定計画相談支援の事業の人員及び運営に関する基準15条1項2号 ↩︎
  3. 3 障害者総合支援法に基づく指定計画相談支援の事業の人員及び運営に関する基準15条2項1号、同項6号、12号 ↩︎

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弁護士 前園進也
弁護士 前園進也

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