障害者虐待

鈴鹿病院の虐待防止委員会、機能不全で虐待認定

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前園 進也
前園 進也
前園 進也
弁護士
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重度知的障害児の父親
埼玉弁護士会・サニープレイス法律事務所所属

障害者の親亡き後や障害福祉について、障害者の親&弁護士の視点から役立つ情報を発信しています。法律相談もできますので、お気軽にお問い合わせください。
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ニュースの要約

国立病院機構鈴鹿病院で、障害のある入院患者に対する36件の虐待疑いが見つかり、病院が関係自治体への通報を怠っていた問題で、鈴鹿市などが3件を虐待と認定しました。

認定されたのは、放棄1件、放置2件で、いずれも病院組織の機能不全によるものと判断されました。鈴鹿市は、院内の虐待防止委員会が検証や改善をせずに放置したことを問題視し、委員会委員長を虐待行為者と認定しました。

現在、関係する22市町が調査を進めており、行政指導も検討されています。病院側は再発防止と信頼回復に努めるとしています1

療養介護とは?

鈴鹿病院は、「筋ジストロフィーおよび重症心身障がい児(者)の医療・療育と神経難病患者の治療・ケアを行う病院」で、障害福祉サービス事業の一つである「療養介護」を提供しています。2

「療養介護」とは、医療が必要な障害者であり常時介護が必要な人に対して、主として昼間において、病院などで行われる機能訓練、療養上の管理、看護、医学的管理の下における介護及び日常生活上の世話のことです。

虐待防止委員会とは?

報道によると、病院の虐待防止委員会の委員長が虐待を行ったと認定されています。虐待防止委員会とはなんでしょうか?

虐待防止委員会とは、障害福祉サービス事業所における虐待を防止するための対策を検討する委員会です3。2022年4月から都道府県などから指定を受けている障害福祉サービス事業者が設置を義務付けられています。

「虐待防止委員会に求められる役割は、虐待の未然防止や虐待事案発生時の検証再発防止策の検討等」4とされています。

虐待防止委員会の長は、管理者がなることが通常です5。鈴鹿病院の療養介護サービス事業の管理者は院長になっています6。ただ、院長が実際に虐待防止委員会の長であるかは不明です。

ネグレクトの認定

伊勢新聞の報道によると、伊勢市は、「『不適切な食事介助』『手順から逸脱したケア』の虐待疑い事案について、院内の虐待防止委員会が検証、改善などの対応をせずに放置したことが、虐待にあたると判断。同委員長を虐待行為者と認定」しました。

つまり、虐待事案発生時の検証や再発防止策の検討という虐待防止委員会に求められる役割を全うしなかったこと自体をネグレクト(放棄・放置)7に該当するとして、虐待防止委員会の長による虐待と認定したことになります。

虐待防止委員会が適切な対応をしなかったことが障害者虐待におけるネグレクト(放棄・放置)と認定されることがあり得るということは、障害福祉サービス事業者側も十分に留意しておく必要があります。

行政処分の有無

医師や看護師などによる36件の虐待の疑いがあること、虐待防止委員会の長が虐待行為者と認定されたことを踏まえると、障害者総合支援法による行政処分が下される可能性があります。経過についてわかり次第、このサイトでも報告したいと思います。

  1. 1 伊勢新聞「障害ある患者に虐待3件認定 鈴鹿病院の事案で2市町 三重」、NHK NEWS WEB「鈴鹿病院虐待疑い 36件中3件を虐待と認定↩︎
  2. 2 概要 | 独立行政法人 国立病院機構 鈴鹿病院 ↩︎
  3. 3 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準40条の2↩︎
  4. 4 「障害者虐待防止委員会、身体的拘束等の 適正化委員会と虐待防止責任者の役割」3ページ ↩︎
  5. 5 「障害者虐待防止委員会、身体的拘束等の 適正化委員会と虐待防止責任者の役割」4ページ ↩︎
  6. 6 事業所詳細情報 独立行政法人国立病院機構鈴鹿病院 ↩︎
  7. 7 障害者虐待防止法2条7項4号 ↩︎
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