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医療保護入院とは? 弁護士が解説|家族のための入院制度の基礎知識

精神疾患を抱える家族のための医療保護入院
前園 進也
前園 進也
前園 進也
弁護士
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重度知的障害児の父親
埼玉弁護士会・サニープレイス法律事務所所属

障害者の親亡き後や障害福祉について、障害者の親&弁護士の視点から役立つ情報を発信しています。法律相談もできますので、お気軽にお問い合わせください。
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家族が治療を拒否…そんな時、医療保護入院という選択肢があります

  • 「最近、息子が部屋に閉じこもりがちで…」
  • 「暴言がひどくて、どうしたらいいのかわからない…」
  • 「夜も眠らず、意味不明なことをつぶやいているんです…」
  • 「幻覚が見えるようで、急に怯えたり、怒り出したりするんです…」
  • 「他人への不信感が強く、誰の言葉も聞こうとしません…」

私は、4年間の精神医療審査会の法律委員として、精神障害者とその家族からお話を聞く機会が多くありました。

このような状況で「医療保護入院」という選択肢があることを知っていただきたいと思います。

医療保護入院とは?

精神科病院への入院には、以下の3つの種類があります。

  1. 任意入院: 本人の同意に基づいた入院1
  2. 措置入院: 入院させないと自傷・他害のおそれがある精神障害者についての非自発的入院2
  3. 医療保護入院: 入院治療が必要だが本人の同意が得られない精神障害者に対する家族等の同意による非自発的入院3 

今回お伝えする「医療保護入院」は、本人の意思によらずに入院となるため、慎重な判断が必要となります。

医療保護入院が必要となるケースとは?

症状が悪化し日常生活が困難になっている場合、医療保護入院が必要となるケースと言えるでしょう。食事や睡眠、身だしなみを整えるといった基本的な行動が難しくなったり、興奮や混乱状態が続いてしまったりする状況が考えられます。

また、お子さんご自身が自分を傷つけてしまう可能性(自傷行為)や、他人に危害を加えてしまう可能性(他害行為)がある場合も、医療保護入院が必要となるケースと言えるでしょう。

さらに、 病気に対する本人の理解がない、治療を拒否する場合も、医療保護入院が検討されることがあります。

医療保護入院の5つの要件

医療保護入院を行うには、以下の5つの要件をすべて満たしている必要があります。

  1. 精神保健指定医の診察結果: 精神保健指定医による診察の結果、入院が必要と判断されること
  2. 精神障害者であること
  3. 医療と保護のために入院が必要であること: 治療や症状の悪化を防ぐために、入院が必要と認められること
  4. 任意入院が行われる状態にないこと: 本人の意思による入院が難しい状態であること
  5. 家族などの同意があること: 家族などが医療保護入院に同意していること

精神保健指定医とは?

精神保健指定医は、精神保健に関する専門的な知識と経験を有し、都道府県知事から指定を受けた医師です。

精神科医療においては、本人の意思によらない入院や、行動制限を行うことがあります。

そのため、これらの業務を行う医師には、患者さんの人権に十分配慮した医療を行うために必要な高い専門性と倫理観が求められます。

精神保健指定医は5年以上医師としての経験があり、そのうち3年以上は精神科医療に従事し、厚生労働大臣が定める精神障害について一定レベル以上の経験を積んだ上で、厚生労働大臣の登録を受けた研修機関で専門研修を修了した医師の中から厚生労働大臣によって指定されます4

医療保護入院の手続きはどうすればいい?

医療保護入院を行うと判断された場合、実際の手続きはどうすればいいのでしょうか?

医療保護入院の手続きは、まず精神科の専門医である「精神保健指定医」による診察と診断から始まります。医師は、本人の症状や病状を詳しく把握し、医療保護入院が必要かどうかを判断します。

精神保健指定医による診察後、ご家族の同意が必要となります。

誰が同意すればいいの?

医療保護入院の同意は、家族等が行うことができます。家族等に含まれる主な人々は次のとおりです5

  • 配偶者
  • 親権者
  • 直系血族(父母、祖父母、子ども、孫など)
  • 兄弟姉妹
  • 後見人、保佐人

この際、医師から医療保護入院に関する説明を受け、本人の状況や治療方針、入院生活について、十分に理解しておくことが大切です。

家族の同意が得られた後、最終的には病院長の判断により入院が決定されます。

医療保護入院のメリット・デメリット

医療保護入院には、専門的な治療を受けられる、安全な環境で過ごせる、家族の身体的・精神的負担を軽減できるといったメリットがあります。

一方、 本人の意思に反して入院となるため、必要のない治療を無理やり受けさせられていると感じてしまう可能性も否定できません。

社会的入院に伴う課題

医療保護入院は、適切な治療環境を提供する一方で、「社会的入院」という問題も孕んでいます。

これは、入院治療の必要性が低くなった後も、 住む場所がない、経済的に困窮している、家族が引き取りを拒否しているなどの理由により、退院できずに長期入院となってしまう状況を指します。

退院請求と精神医療審査会

医療保護入院となった場合でも、患者さんやその家族は退院を求めることができます。

主治医が退院を認めない場合は、都道府県に設置された「精神医療審査会6」に退院の請求ができます。精神医療審査会は、精神科医や弁護士、学識経験者などで構成され、入院の必要性や治療内容を審査し、必要があれば病院側に退院を勧告します。

医療保護入院はゴールではない。その先にあるもの

医療保護入院は、あくまで一時的な治療の場です。退院後もお子さんが安心して生活し、社会復帰を目指していくためには、継続的なサポートが不可欠です。

入退院を繰り返し、治療を続けてもなかなか症状が安定せず、日常生活を送るのも困難な状況が続く場合は、「成年後見制度」の利用を検討してみてはいかがでしょうか?

成年後見制度で、親御さんの負担を減らす

成年後見制度とは、判断能力が不十分な方を保護し、財産管理や身上監護をサポートする制度です。

医療保護入院への同意は、ご家族にとって辛い決断です。「子どもを閉じ込めてしまったのではないか」という罪悪感に苦しむ方も少なくありません。

成年後見制度を利用することで、医療保護入院の同意を成年後見人や保佐人に任せることができるため、親御さんが直接同意するという辛い状況を避けることができます。

また、 成年後見制度を利用することで、専門家のサポートを受けながら、お子さんの将来にわたる安心を築くことができます。社会福祉士や精神保健福祉士といった福祉の専門家が成年後見人になれば、治療や福祉サービスの利用についても、心強い味方になってくれるはずです。

お子さん本人は、病気の自覚がなく、福祉サービスの利用を拒否しているかもしれません。

しかし、成年後見人が介入することで、 これまで利用できなかった障害福祉サービスの利用や、障害年金の申請が可能になるなど、お子さんの生活を支えるための新たな道が開けていきます。

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一人で悩まず、専門家へ相談を

もう一人で抱え込まないで。今の状況を一緒に変えていきましょう。

ご家族が苦しんでいる時、どうすればいいのか分からず、一人で抱え込んでしまうこともあるかもしれません。

  • 「このままで本当にいいのか…」
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そんな風に悩んでいるのなら、一人で抱え込まず、まずはご相談ください

弁護士 前園進也
弁護士 前園進也

私は、重度知的障害の子どもの父親であり、弁護士として4年間、精神医療審査会の法律委員を務めてまいりました。

精神障害を抱える方々とそのご家族の気持ちに共感し、数多くの事例と向き合ってきた経験を活かし、最善の解決策を一緒に考えていきたいと思っております。

脚注

  1. 精神保健福祉法20条 ↩︎
  2. 精神保健福祉法27条 ↩︎
  3. 精神保健福祉法33条 ↩︎
  4. 精神保健福祉法18条 ↩︎
  5. 精神保健福祉法5条 ↩︎
  6. 精神保健福祉法12条 ↩︎
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