障害者虐待

知的障害者虐待:第三者委員会の報告書はなぜ開示されないのか?

ニュース解説のアイキャッチ画像
前園 進也
前園 進也
前園 進也
弁護士
Profile
重度知的障害児の父親
埼玉弁護士会・サニープレイス法律事務所所属

障害者の親亡き後や障害福祉について、障害者の親&弁護士の視点から役立つ情報を発信しています。法律相談もできますので、お気軽にお問い合わせください。
プロフィールを読む

はじめに

東京都府中市の社会福祉法人「清陽会」の元副理事長による知的障害者への虐待問題で、第三者委員会が設置されました。しかし、その調査報告書が未だ開示されていないことが、共同通信の記事で明らかになりました。本記事では、第三者委員会の調査報告書の開示について解説します。

記事の概要

共同通信は、2024年11月25日、「『どうせ家で話せるわけない』知的障害者を10年虐待、副理事長による「無法地帯」 内部通報があったのに市役所は7年間認めず」という記事を47NEWSに公開しました。記事の内容を簡潔にまとめると、次のとおりです。

東京都府中市の社会福祉法人「清陽会」で、元副理事長による知的障害者への約10年間の虐待が発覚しました。

第三者委員会の報告書によると、元副理事長は利用者をビンタしたり、暴言を吐いたりするなどの虐待を繰り返していました。職員に対しても暴行や暴言、パワーハラスメントがあり、恐怖で職員を支配し「無法地帯」のような状態だったと報告書は指摘しています。

行政には十数回もの内部告発や通報があったにもかかわらず、府中市は約7年間も虐待を認定しませんでした。元副理事長は市職員OBだったこともあり、市の対応の遅れが問題視されています。

利用者の家族からは、虐待によって人生がめちゃくちゃにされたと訴えがあり、清陽会と行政に対し、責任を取るよう求めています。

第三者委員会の調査報告書の開示

この記事によると、第三者委員会の調査報告書が未だ公表されておらず、職員にも概要しか明らかにされていないとのこと。しかも、同法人の通所施設の利用者家族が調査報告書の開示を再三求めたものの開示されず、府中市の指導を受けて、2024年4月に開示されたそうです。

今回は第三者委員会の調査報告書の開示について簡単に解説したいと思います。

第三者委員会とは?

企業の不祥事に関するニュースで、「第三者委員会」という言葉をよく耳にします。第三者委員会とは、日本弁護士連合会の「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」(2010年策定)によると、次のとおりです。

企業等から独立した委員のみをもって構成され、徹底した調査を実施した上で、専門家としての知見と経験に基づいて原因を分析し、必要に応じて具体的な再発防止策等を提言するタイプの委員会

この「企業等」には、当然に社会福祉法人、社会福祉事業者も含まれます。

第三者委員会の目的とは?

今回のように障害者虐待の調査・検証のために設置される第三者委員会の目的は、日本弁護士連合会の「事業者による高齢者・障害者に対する虐待検証のための第三者委員会ガイドライン」(2023年策定)によると、次のとおりです。

社会福祉事業者等には、虐待防止に向けた経営組織のガバナンスの強化、事業運営の透明性の向上及び地域における公益的な取組を実施する責務がある。第三者委員会は、このような観点から、ステークホルダーに対する説明責任を果たす目的で設置される委員会である。

ステークホルダーとは「利害関係者」のことであり、障害福祉サービス事業においては、従業員、利用者やその家族、行政機関、地域住民などのことを指します。

このことから、虐待の調査・検証のための第三者委員会は、従業員、利用者やその家族、行政機関などに対する説明責任を果たす目的で設置されるものであることがわかります。

調査報告書の開示

第三者委員会はステークホルダーへの説明責任を果たす目的で設置されるものなので、調査報告書はステークホルダーに対しては原則として開示するものです。開示しなければ第三者委員会を設置した意味がなくなります。調査報告書がステークホルダーに開示されなければ、社会的非難を回避するために、発生した虐待に対して真摯な対応をしている振りをしているだけと判断されても仕方がありません。

上記の日本弁護士連合会のガイドラインにおいても、「説明責任についての指針(調査報告書の開示に関する指針)として、次のような記載があります。

社会福祉事業者等は、第三者委員会から提出された調査報告書を、原則として、遅滞なく、ステークホルダーに対して開示すること。

共同通信の記事によると、清陽会の第三者委員会は2021年6月に設置されたので、2023年に策定されたガイドラインを踏まえたものではありません。しかし、2010年のガイドラインにも同様の記載があります。この第三者委員会のメンバーも公表されていないようなので、委員に弁護士がいるかは不明です。ただ、第三者委員会の構成員に弁護士がいないとは考えられないので、調査報告書の開示が原則であることは第三者委員会も把握していたのではないかと思われます。委員に弁護士がいるのであれば、同会のステークホルダーへの開示について積極的に同会へ求めてほしいところです。

母体は親の会

共同通信の記事によると、清陽会は親の会が母体となった法人のようです。

問題の社会福祉法人は「清陽会」。府中市で知的障害者の作業所2カ所(定員各30人)やグループホームなどを運営している。元々は、知的障害者の親の会が母体となって1989年に設立された法人だ。

知的障害者の親が障害のある子どものために障害福祉サービス事業を開業するというのはよくある話です。母体となった親の会のメンバーは、障害者虐待のない障害福祉施設を当然に求めていたと思います。

法人設立が1989年で、府中市に最初の虐待通報がなされたのが2013年なので、たったの24年で障害のある子どもが安心して通える施設を作った親の思いが、このような結果になったのは残念です。

記事URLをコピーしました