障害者虐待

障害者虐待と刑事責任:加害者が直面する法的リスクと刑事手続きの流れ

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前園 進也
前園 進也
前園 進也
弁護士
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重度知的障害児の父親
埼玉弁護士会・サニープレイス法律事務所所属

障害者の親亡き後や障害福祉について、障害者の親&弁護士の視点から役立つ情報を発信しています。法律相談もできますので、お気軽にお問い合わせください。
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虐待を見て見ぬふりをすると

障害者虐待は、法律で禁止されています。障害者虐待の中には犯罪として処罰されるものがあります。身体的虐待、性的虐待、心理的虐待、放棄・放任、経済的虐待など、その形態は様々ですが、いずれも被害者を傷つけるものです。

虐待の早期発見、早期介入は、被害の拡大を防ぐために不可欠です。しかし、残念ながら、虐待は隠蔽されやすく、発見が遅れるケースも少なくありません。

もし、あなたが障害福祉サービスに従事する中で、虐待の疑いがある状況に直面したらどうすればよいでしょうか?ためらうことなく、速やかに市町村への通報義務を果たすことが求められます1

しかし、通報をためらう理由は様々あるかもしれません。

  • 「まさか虐待が行われているとは思えない」
  • 「通報することで関係が悪化するのではないか」
  • 「自分が責任を問われるのではないか」

といった不安や迷いがあるかもしれません。

この記事では、障害者虐待の刑事責任について、特に刑事手続きの流れに焦点を当てて解説します。虐待の通報義務を怠り、虐待がエスカレートして被害が拡大した場合に、虐待の加害者が刑事責任を問われる可能性があることも含め、わかりやすく説明します。

この記事を読むことで、虐待の重大性とその法的責任について深く理解し、虐待の早期発見、早期介入に向けて、積極的な行動をとるきっかけとなることを願っています。

障害者虐待の刑事手続き:逮捕から判決までを弁護士が解説

刑事事件の手続の一般的な流れは、以下のとおりです。

  1. 逮捕
  2. 勾留
  3. 起訴
  4. 判決

障害福祉サービス事業者の従業員による障害者虐待が刑事事件となった場合に、虐待加害者はどのような不利益が生じるかを、各段階について解説します。

逮捕

逮捕とは、警察などによる短期間の身体拘束です。逮捕は最大で三日間です。警察に逮捕された場合は、担当する警察署の留置場に入れられ、そこで寝泊まりすることになります。留置場から出られないこと以外にも、以下のような不利益があります。

  • 他の被疑者・容疑者と同室
  • 毎日入浴できない
  • 家族などと面会はできない

逮捕の主な目的は、証拠隠滅の防止や逃亡の防止です。障害福祉サービス事業者の従業員による障害者虐待は逮捕されやすい傾向にあります。

なぜなら、加害者と被害者は面識があるため、加害者が自分にとって有利になるように、被害者や目撃者に働きかけをしたり、同僚などと口裏合わせをするおそれがあるからです。つまり、証拠隠滅のおそれがあるため、逮捕されやすいです。

勾留:期間中の生活と制限

勾留とは、警察などによる長期間の身体拘束です。勾留の期間は10日ですが、勾留が延長されて20日間になることは珍しくありません。障害者虐待の場合は、被害者が障害者であるため事情聴取に時間がかかるので、勾留延長も十分あり得ます。

多くの場合、逮捕から勾留に切り替わるので、引き続き担当する警察署での留置場生活となります。逮捕の時と異なるのは、家族や友人などとの面会ができるようになるのが通常です。ただし、弁護士以外との面会には、面会中に警察官が立ち会います。また、1日1組の面会しか認められません。このように家族や友人との面会は監視付きの短時間しかできません。

示談交渉:虐待事件における示談交渉の困難性と注意点

勾留段階になると、多くの場合、加害者を弁護する弁護人がつきます。虐待事件における弁護人の重要な活動は被害者側との示談交渉となります。示談とは、被害者に謝罪し、許してもらうことです。一般的に、示談には被害弁償、お金の支払いが伴います。被害者側との示談が成立すれば、被害者の被害感情、加害者に対する処罰感情がなくなったと捉えられて、処罰を避けられることが多いです。

しかし、虐待事件は示談が成立するのは簡単ではありません。虐待の被害に遭いやすい知的障害者の場合、被害者本人と交渉することが難しいことがあります。また、被害者の家族は本人よりも加害者に対する処罰感情が高いのが一般的です。そのため、加害者が処罰を免れることになる示談には応じないケースが多いです。

起訴:公開の法廷で裁かれることも?

勾留期間中に、検察官は虐待事件の加害者について、起訴するかどうかを判断しなければなりません。起訴とは、検察官が裁判所に加害者を処罰するように求めることをいいます。起訴には主に次の二つの種類があります。

  1. 通常起訴(公判請求)
  2. 略式起訴

通常の起訴(公判請求)とは、公開の法廷で裁判所による審理を求める起訴のことです。他方、略式起訴とは、公開の法廷を開かずに簡易裁判所による書面審理を求める起訴のことです。

略式起訴の多くは罰金刑になり、速やかに釈放されます。他方、通常起訴(公判請求)の場合は引き続き身柄拘束がなされます。

保釈:高額な保証金

もっとも、通常起訴(公判請求)がなされると、保釈を請求することができます。保釈とは、保釈保証金を裁判所に納めて、釈放してもらうことです。保釈保証金は150万円から300万円であることが多いです。この保釈保証金は身柄拘束されている本人や近親者が用意します。もし、逃亡したり証拠隠滅をしたりしたら、保釈が取り消されて再び身柄が拘束されて、保釈保証金も没収されることがあります。

公開の法廷での裁判は、通常起訴されてから、1、2か月後に開かれます。公開の法廷での審理は1回で終わることが多いです。1回目の審理の後、約2週間後に判決が下されることが一般的です。保釈が認められて釈放されない限り、判決が出るまでの1、2か月間は警察署や拘置所での身柄拘束が続くことになります。長期間の身柄拘束は人によっては負担が多く、体調を崩す人もいます。

判決:刑務所に行くことに?

刑事事件の判決にはいくつかの種類があります。虐待事件において重要なのは、刑務所に行くことになるかどうかです。刑務所に行くことになる判決を「実刑判決」といいます。他方、刑務所に行かずに済む判決を「執行猶予付き判決」といいます。

執行猶予とは、刑務所に入る刑罰の執行が猶予されるという意味です。裁判所が執行猶予付きの判決を下した後、原則として3年間、再び犯罪をするなどして執行猶予を取り消されることがなければ、刑務所に行くことが免れます。

虐待事件の加害者に前科がない場合の多くは執行猶予付きの判決が下されることが多いです。ただし、性犯罪や悪質な身体的虐待、被害額の多い経済的虐待の場合には、実刑判決が下されることもあります。

障害者虐待の刑事責任:早期発見・早期介入の重要性

この記事では、障害者虐待が刑事事件になった場合の刑事責任と、刑事手続きの流れについて解説しました。

虐待の通報義務を怠ると、被害が拡大し、加害者が刑事責任を問われる可能性があります。虐待の早期発見・早期介入が被害の拡大を防ぐために不可欠です。

虐待の疑いがある状況に直面したら、ためらうことなく速やかに通報し、適切な対応を取るようにしましょう。

この記事が、虐待の防止と、被害者の保護に貢献できれば幸いです。

虐待リスクを低減するための研修をご提供

障害者虐待の防止には、早期発見と早期介入が不可欠です。

虐待の兆候を見逃さないために、ぜひ研修をご検討ください。

弁護士 前園進也
弁護士 前園進也

重度知的障害のある子の父親として、そして弁護士として、利用者の方々にも職員の皆様にも安心できる環境づくりをサポートします。

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脚注

  1. 1 障害者虐待防止法16条 ↩︎
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