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前園 進也
前園 進也
弁護士
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重度知的障害児の父親
埼玉弁護士会・サニープレイス法律事務所所属

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障害者の親亡き後プラン パーフェクトガイド
障害福祉

なぜ入浴中のやけど事故は繰り返されるのか?事例から学ぶ原因と具体的な再発防止策

お湯と水が別々の蛇口からお風呂にお湯がはられている画像
前園 進也

事故の概要(宮城県石巻市)

3年前の2022年12月30日、宮城県石巻市の障害者支援施設「ひたかみ園」で、短期入所していた重度の障害がある当時38歳の女性が、入浴中に全身に重いやけどを負い、その3日後に死亡する事故がありました1

発生経緯

事故の経緯として、女性は職員の介助のもとリフト付きの浴槽で入浴していました。職員2人が入浴前に、湯に手を入れたり温度計を使ったりしてお湯の表面温度が約40度であることを確認していました。しかし、浴槽は湯と水が別々の蛇口から出るタイプだったため、お湯の内部は実際には50度前後に達していた可能性が高いことが、その後の施設の検証で判明しました。

職員がおよそ5分後に女性を湯から引き上げた際、右太ももの皮膚がはがれるなどの深刻なやけどが確認され、症状は腹部や胸部など全身に及んでいました。女性はすぐに病院へ搬送されましたが、3日後にやけどが原因の呼吸不全で死亡が確認されました。

施設側の対応と再発防止策

この事態を受け、施設側は事故の直接的な原因に対応するため、以下の具体的な再発防止策を講じています。

  • 蛇口を混合水栓に変更: 湯と水が別々に出る従来の蛇口から、あらかじめ設定した温度のお湯が出る混合水栓に設備を改修しました。これにより、給湯時点で熱湯が浴槽に直接注がれる危険性をなくし、根本的な安全性を確保しています。
  • 入浴前のお湯のかき混ぜの徹底: 湯温を確認する前に、浴槽内のお湯を複数回しっかりとかき混ぜる手順を徹底しました。これは、お湯の表面と内部で生じる温度差をなくし、浴槽全体の温度を均一にすることで、測定値の正確性を担保する対策です。

「ひたかみ園」の齋藤康隆園長は、「安心、安全を保証すべき施設で事故を起こしたことを深くおわび申し上げます」と謝罪し、再発防止に努める意向を示しています。

警察の捜査

なお、警察は関係者を業務上過失致死傷の疑いで捜査を進めています。

類似事故との共通点(愛媛県松山市)

石巻市の事故と同様の入浴死亡事故は、他の施設でも発生しています。2023年12月に愛媛県松山市の福祉施設で起きた事故には、石巻のケースと複数の共通点が見られます2

この事故で亡くなったのは、重い知的障害のある13歳の子供でした。石巻のケースと同様に、障害のある利用者が入浴中に高温のお湯によってやけどを負い、その後死亡に至った点が共通しています。

最も注目すべき類似点は、事故原因となった設備の問題です。この松山市の施設も、石巻の「ひたかみ園」が改修する以前と同様に、湯と水が別々の蛇口から出るタイプの浴槽を使用していました。さらに、施設全体の給湯温度が食器洗浄のために60度という高温に設定されたままになっていたことも、事故の引き金となりました。

これらの事例は、障害者支援施設において、浴槽の設備(分離型蛇口)がもたらす危険性や、給湯温度の一括管理、入浴時の温度確認手順といった、基本的な安全管理体制の不備が、いかに深刻な事態を招くかを共通して示しています。

事業者が講じるべき再発防止策

短期間に同様の入浴死亡事故が二件発生している事実は、これらが決して対岸の火事ではなく、どの事業所においても起こりうるリスクの高い事故であることを示しています。障害福祉サービス事業を運営される皆様にとって、利用者の安全確保は最も優先されるべき責務です。特に、毎日のように行われる入浴介助には、今回のような重大なリスクが潜んでいることを改めて認識する必要があります。

これらの事故から得られる最大の教訓は、「設備そのものが持つリスク」と「お湯の温度確認の不徹底」という二つの問題点です。つきましては、皆様の事業所において、以下の二点を至急ご確認いただき、具体的な行動に移していただくことを強く推奨いたします。

1.入浴設備の確認と混合水栓への改修

まず、事業所の浴室の蛇口が、お湯と水が別々に出るタイプではないかをご確認ください。このタイプの蛇口は、操作ミスや温度のムラによって熱湯が直接浴槽に注がれるリスクを常に内包しており、構造的な危険性があります。最も確実な再発防止策は、あらかじめ設定した温度で給湯できる「混合水栓」へ改修することです。これにより、ヒューマンエラーが発生しても熱湯が出る危険性を根本から排除できます。設備の改修には費用がかかりますが、利用者の生命を守るための最も重要な投資と捉え、前向きにご検討ください。

2.温度確認手順の再構築と徹底

直ちに設備の改修が難しい場合は、現在の運用手順を抜本的に見直し、以下の対策を徹底してください。重要なのは、「温度のムラをなくすこと」と「確認手順を形骸化させない仕組み」です。

  1. 必ず浴槽のお湯をしっかりとかき混ぜる: 湯温を測る前に、必ずお湯の底から全体をかき混ぜ、浴槽内の温度を均一にしてください。表面だけの確認では内部の熱さを見逃す危険があります。
  2. 複数箇所での温度測定: 温度計を使い、浴槽の中央、手前、奥など、複数箇所の温度を測定し、いずれも適温であることを確認してください。
  3. 複数の職員による「手順の」ダブルチェック: 石巻の事故が示すように、単に2名で確認するだけでは不十分です。重要なのは、もう一人の職員が「お湯をしっかりかき混ぜたか」「複数箇所の温度を測ったか」という具体的な安全手順が実行されたこと自体を、相互に確認する体制です。これにより、手順の省略や確認作業の形骸化を防ぎます。

職員が負う刑事罰のリスク

最後に、こうした事故がもたらすのは、利用者の生命が失われるという取り返しのつかない結果だけではない点を強調しておきたいと思います。

記事にある通り、警察は関係者を業務上過失致死傷の疑いで捜査しています。これは、安全管理を怠った結果、人の死傷を招いた場合に問われる罪です。

刑法 第211条(業務上過失致死傷等) 業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金に処する。

この条文が示す通り、有罪となれば担当した職員個人が拘禁刑といった実刑判決を受け、刑務所に収監される可能性もあり得ます。安全対策の徹底は、利用者を守るだけでなく、職員自身の人生を守るためにも不可欠なのです。

利用者の命と安全は、皆様の日々の確実な業務遂行にかかっています。本記事で紹介した事故を自らの事業所のリスクとして捉え、今一度、入浴介助の体制を見直すきっかけとしていただければ幸いです。

  1. 1.石巻の障害者支援施設 3年前入浴中のやけどで女性が死亡判明|NHK 宮城のニュース、障がい者支援施設で入浴介助中に湯温50度前後 女性が重いやけど負い死亡〈宮城〉(仙台放送NEWS) ↩︎
  2. 2.重度知的障がいの13歳が施設でやけど負い死亡 事故は防げなかったのかー やけどから2時間後に受診、施設の説明不十分など家族は対応疑問視 TBS NEWS DIG ↩︎

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