障害者虐待

障害者虐待とは?

前園 進也
前園 進也
前園 進也
弁護士
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重度知的障害児の父親
埼玉弁護士会・サニープレイス法律事務所所属

障害者の親亡き後や障害福祉について、障害者の親&弁護士の視点から役立つ情報を発信しています。法律相談もできますので、お気軽にお問い合わせください。
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はじめに

どのような行為が障害者に対する虐待に当たるのかを、障害者虐待防止法に基づいて解説します。

障害児を育てていて感じるのは、障害者虐待は決して他人事ではなく、些細なことで簡単に一線を超えてしまうぐらい身近なところにあるということです。

障害者虐待は身近なところにあるので、自分が虐待しないように、または、自分や家族が虐待された場合にいち早く気づくためには、どういうことが障害者虐待にあたるのかを知ることは大事です。

ですので、障害者、その家族、支援者で、障害者虐待についてあまり知らない方は、この記事を最後までお読みください。

障害者虐待の5類型

障害者虐待防止法には、障害者に対する虐待として5つの類型をあげています。その5つは、以下のとおりです。

  1. 身体的虐待
  2. 性的虐待
  3. 心理的虐待
  4. ネグレクト
  5. 経済的虐待

障害者虐待防止法では、家族などの養護者、障害福祉サービス事業者の従業員、障害者を雇用している使用者について、それぞれについて5つの類型の虐待を定めています。が、実質的には同じ内容です。

なので、この記事では、養護者、従業員、使用者ごとに分けて説明はせずに、まとめて説明します。そして、5つの類型について、具体例を挙げながら解説します。

虐待を防止する法律は、他にも児童虐待防止法、高齢者虐待防止法があります。障害者虐待の内容は、高齢者虐待とほぼ同じ内容です。他方、児童虐待には、5番目の経済的虐待はありません。ただ、児童に対する経済的虐待も現実にはあるのに、経済的虐待を児童虐待に含めないことに疑問はあります。

身体的虐待

身体的虐待は、次の二つのことです。

  1. 暴行
  2. 正当な理由のない身体拘束

暴行は、殴る蹴る、つねる、転ばせる、物を投げつけるなど、直接的な暴力が典型例で、わかりやすいと思います。暴力によって障害者が実際にケガをしたかどうかは関係なく、ケガをしていなくてもケガするおそれがあれば、身体的虐待になります。このような直接的な暴力ではなくても、無理やり食事を食べさせたり、飲み物を飲ませたりすることも含まれます。

身体拘束

正当な理由のない身体拘束も身体的虐待になります。身体拘束とは、障害者が動けないように縛り付けること、手袋やつなぎの服を着せること、体を使って抑えつけること、薬をたくさん飲ませて大人しくさせること、出られない部屋に閉じ込めることなどです。

身体拘束は、本人や周りの人の安全のために必要な場合があります。ですので、身体拘束をしたから、直ちに身体的虐待になるわけではありません。正当な理由がある身体拘束は身体的な虐待にはなりません。

では、どういう場合に身体拘束は許されるのでしょうか?次の3要件を全て満たす場合は、正当な理由がある身体拘束となります。

  1. 切迫性(障害者本人や周りの人の生命、身体、権利が危険に晒される可能性が著しく高いこと)
  2. 非代替性(身体拘束以外の代替手段がないこと)
  3. 一時性(身体拘束が一時的であること)

例えば、障害者本人が壁に頭を叩きつけているとか、周りの人に殴りかかろうとしているとかは、正に身体に対する危険が切迫しているので、このような場合に、周りの人が抑えつけて止めるような場合は、身体拘束の3要件を満たしていて、正当な理由のある身体拘束といえます。

ただし、このようなわかりやすい例であればいいのですが、人的・物的なリソースの不足から、現場での身体拘束の3要件の判断は、さほど厳格には行われていないと思われます。例えば、他害をする人をつきっきりで見守ることが人手不足で困難なため、隔離するということは、よくあるかと思います。

性的虐待

障害者に対してわいせつな行為をする、またはわいせつな行為をさせることが性的虐待にあたります。

わいせつな行為とは、例えば、キスしたり、胸や下半身を触ったり触らせたり、性行為、性的な言葉を言ったり言わせたり、わいせつな写真や映像を見せたりすることです。

他にも、排泄する姿、裸や下着姿を見られることは、性的に恥ずかしいことですので、そのような姿を人前でさせたり、撮影したりすることもわいせつな行為になります。

もっとも、これらの行為をしたとしても、障害者本人の同意があれば、性的虐待に基本的にはなりません。ただ、重度の障害者の場合、本人の意思を明確に示せないこともありますし、騙されやすいこともあるので、同意の有無については、慎重に判断する必要があります。

心理的虐待

障害者虐待防止法は、障害者に対する著しい暴言、著しく拒絶的な対応その他の障害者に著しい心理的外傷を与える言動を心理的虐待としています。

心理的虐待は、さまざまなものがあります。著しい暴言の例としては、怒鳴る、侮辱的な言葉をいう、出ていってもらうなどと脅す、障害者の家族や友人の悪口をいうなどの言葉の暴力と呼ばれるものです。

著しく拒絶的な対応の例としては、無視、本人の意思を無視したおむつや食事の全介助、交換条件を示したりするなどがあります。

その他としては、外部との連絡の遮断、本人の物を乱暴に扱う、面会させない、本人の意思に反した異性介助なども心理的虐待にあたります。

ネグレクト(放棄・放置)

障害者虐待防止法では、障害者を衰弱させるような著しい減食、長時間の放置、他者からの障害者虐待の放置なども虐待としています。これらは一般的にはネグレクトといいます。

ネグレクトの例としては、入浴させない、髪・ヒゲ・爪が伸び放題、洗濯していない服を着させる、おむつ交換をしない、ゴミを片付けない、体調が悪くても診察させない、薬を飲ませない、他人とのトラブルを見て見ぬふりするなどです。

経済的虐待

最後の経済的虐待は、障害者の財産を不当に処分することその他障害者から不当に財産上の利益を得ることです。

経済的虐待の例としては、本人のお金や財産を盗んだり、勝手に使ったり、処分したり、無理やりお金を借りたり、寄付させたりです。他にも、本人の財産を管理している人、例えば家族や成年後見人が、必要なお金を本人に渡さないとか、節約を強いることも経済的な虐待になり得ます。

障害者虐待の5つの類型である、身体的虐待、性的虐待、心理的虐待、ネグレクト、経済的虐待を、具体例をあげて解説しました。

障害者虐待が発生しやすい場所:グループホーム

厚生労働省の調査(「令和4年度 障害者虐待対応状況調査<障害者福祉施設従事者等による障害者虐待>」)によると、障害福祉サービスの中で、グループホームは虐待発生件数が多いという現実があります。

なぜグループホームで虐待が多いのでしょうか?

グループホームは、他の障害福祉サービスと比べて、少人数で運営されていることが多く、職員一人当たりの負担が大きくなりがちです。また、夜間や休日の体制が手薄な場合もあり、人手不足が深刻化している現状があります。このような状況下では、職員のストレスや疲労が蓄積しやすく、虐待のリスクが高まる可能性が指摘されています。

また、グループホームは地域の中にあり、家庭的な雰囲気の中で生活を送ることができるというメリットがある一方、外部からの目が届きにくいという側面もあります。そのため、虐待が発生しても、早期に発見・対応することが難しいケースもあると考えられます。

我が子を虐待から守るためには、グループホームの運営実態や課題について、私たち親がしっかりと理解しておく必要があります。グループホームの現状と課題について、詳しくは「弁護士が教える!グループホームの基礎知識【知的障害のある子の親御さん向け】」をご覧ください。

終わりに

この記事の冒頭でも書きましたが、障害者虐待は他人事ではありません。自分がしてしまうかもしれませんし、うちの子が虐待を受けるかもしれません。明確な意思を持って虐待をする人はいるかもしれませんが、虐待だとは思わずにしていたことが、少しずつエスカレートしてしまうことも少なくないと思います。ですので、まずはどういう行為が障害者虐待にあたるかを知っておくことは、重要だと思います。この記事であげた具体例だけでも結構な数があったので、すべてを頭に入れることは難しいと思います。折に触れて、この記事を見返していただければと思います。

自分や家族が虐待を受けているなど、障害者虐待について困っている方がいたら、個別に法律相談を受けることもできます。お問い合わせページからお問い合わせください。

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