うちの子は成年後見の対象?その疑問に答える「法律が定める3つの条件」

「成年後見」って、具体的にどんな“状態”のこと?
知的障害のあるお子さんの将来を考える中で、「成年後見(せいねんこうけん)」という言葉を耳にしたことがある方は多いと思います。
しかし、その言葉が具体的にどのような“状態”を指すのか、ピンとこない方も多いのではないでしょうか。
この記事では、重度の知的障害がある息子の父親であり、弁護士でもある私が、その疑問に答えます。
法律が定める「成年後見」の3つの要件
民法という法律では、次のように定めています。
「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者」1
この定義を見て、「専門的で、何だか難しい…」と感じた方も多いのではないでしょうか。普段の生活ではまず目にしない言葉ですから、そう感じるのはごく自然なことです。
ご安心ください。ここからは、この定義を分かりやすく、3つのパートに分解して解説します。一つひとつ確認していきましょう。
要件1:「精神上の障害により」
まず一つ目のパートです。
具体的な病名・障害名としては、以下のようなものが挙げられます。
- 統合失調症
- 知的障害
- 認知症
- 遷延性意識障害(いわゆる植物状態)
- 脳梗塞など
ここで重要なのは、身体障害が原因で、ご自身の意思を示すことが難しいという場合は、ここに含まれないという点です。あくまで「精神上」の障害が原因である必要があります。
要件2:「事理を弁識する能力を欠く」
次に、この定義の中心となる部分です。「事理を弁識する能力」とは、一言でいえば「自分のやったこと(法律上の行為)の結果がどうなるか、ちゃんと判断できる能力」のことです。
例えば、「お金を借りる」という行為について考えてみましょう。
この能力がある人なら、お金を借りると、
- 返すように言われたら、お金を返さないといけないこと
- 時には、利息の支払いが必要になること
- もし支払わなかった場合、裁判などを通じて強制的に支払わされる可能性があること
といった、行為に伴う責任や結果を理解し自分にとって損得などを判断できます。
「事理を弁識する能力を欠く」とは、こうした判断ができない状態を指します。
要件3:「常況にある」
最後のパートです。
「常況にある」とは、分かりやすく言えば「日常的に」その状態にある、という意味です。
ただし、これは「終始」、つまり四六時中ずっとという意味ではありません。法律的には「大部分の時間」その状態にあれば十分とされています。これにより、お酒に酔って一時的に判断能力がなくなっている、といった状態とは明確に区別されます。
まだピンとこない方へ|制度の立案担当者が示した2つの具体例
3つのパートについてそれぞれ解説しました。
つまり、成年後見とは「(原因)精神上の障害によって、(状態)自分の行為の結果を判断する能力が、(継続性)日常的にない状態」というのが、法律上の定義になります。
ここまで解説を読んで、「理屈は分かったけれど、まだピンとこない」「じゃあ、うちの子の場合は具体的にどう判断されるんだろう?」と感じているかもしれません。その感覚は、ご家族として当然のことです。
その「ピンとこない」という感覚を解消するために、この成年後見制度を作った人が「例えばこういう人ですよ」と示した、非常に分かりやすい具体例があります2。これを見れば、一気にイメージが具体的になるはずです。
- 日常の買物も自分ですることはできず、誰かに代わってやってもらう必要がある者
- ごく日常的な事柄(家族の名前、自分の居場所等)が分からなくなっている者
いかがでしょうか。難しい法律用語が、実はこうした具体的な姿としっかり結びついているのです。
まとめ:大切な人を守るための第一歩
今回は、成年後見の対象となる方の状態を定義する、法律用語について解説しました。
どのような状態が成年後見の対象となるのか、具体的なイメージが掴めたのではないでしょうか。この記事でお伝えした内容が、お子さんにとってどのようなサポートが必要かを考える上での、最初の一歩となれば幸いです。
- 1. 民法7条 ↩︎
- 2. 民法(成年後見等関係)等の改正に関する中間試案1p前注2 ↩︎
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