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前園 進也
前園 進也
弁護士
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重度知的障害児の父親
埼玉弁護士会・サニープレイス法律事務所所属

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障害者の親亡き後プラン パーフェクトガイド
障害福祉

知的障害者の生活保護受給率が5.3%にとどまる理由

生活保護の捕捉率5.3%の壁を可視化した図解。「なぜ受給していない?」というテキストと、未受給者をグレー、受給者をオレンジで色分けした人型アイコンのデザイン。
前園 進也

最低生活費を下回る収入と極端に低い受給率の実態

重度の知的障害者の多くは、十分な収入がありません。障害基礎年金(2025年度で1級が月額約86,000円で、2級が約69,000円)と就労継続支援B型などの福祉的就労による「工賃」(2023年度の平均工賃は月額約23,000円1)を得て生活しています。

これらを合わせても、合計で月額9万円から11万円程度にしかならず、生活するのに必要な最低限の金額(最低生活費)に届かないことがほとんどです。そのため、重度の知的障害者は、本来であれば、生活保護をもらえる可能性が高い状況にあります。

しかし、実際に生活保護をもらっている人の割合は、驚くほど低いのです。ある全国規模の調査「令和5年度全国グループホーム実態調査報告2」によると、障害者グループホームを利用している知的障害者が生活保護を受給している割合はわずか5.3%にとどまっています。

なぜ、本来受給できる重度の知的障害者がこれほど生活保護を受給していないのでしょうか。この記事では、生活保護法と役所の窓口で実際に起きていることから、この低い数字の理由を明らかにし、どうすればよいのかを考えます。

収入が生活保護基準を下回るグループホーム利用者の実態

この記事のもとになった「令和5年度全国グループホーム実態調査報告」は、全国1,382か所の事業所と、そこで暮らす30,532人の利用者を対象にした大きな調査です。グループホームで暮らす知的障害者が、普段どれくらいのお金で生活しているのかを詳しく調べています。

工賃と年金を合わせても最低生活費に届かない現状

調査の結果、以下のように、グループホーム利用者の多くが収入が少ないことが分かりました。

実態調査によると、グループホーム利用者の約半分(47.1%)は、工賃などの就労収入が月に1万円もありません。3万円未満の人まで含めると、約7割(67.4%)にものぼります。

これに障害基礎年金を足しても、多くの人が生活保護の基準(最低生活費)に届きません。特に、利用者の52.0%を占める障害基礎年金2級(月額約69,000円)の受給者の場合、工賃と合わせても月収は7〜9万円程度です。都市部をはじめ多くの地域で、この金額だけで自立して生活することは極めて困難です。なお、障害基礎年金1級(月額約86,000円)の受給者は30.6%いますが、それでも工賃が少なければ生活保護の基準ギリギリか、下回る可能性があります。

それなのに、実際に生活保護をもらっている人はわずか5.3%しかいません。この大きな差は、何が原因なのでしょうか?

申請を阻む生活保護法の「原則」という壁

この差が生まれる原因は、生活保護法と知的障害者の状態が合っていないことにあります。

本人申請の原則(申請保護の原則)

生活保護法という法律では、保護を受けるためには「本人などが申請すること」が必要だと決まっています3。しかし、調査対象者のグループホームの利用者の半分以上(57.2%)は、障害の程度が重い人たち(障害支援区分4〜6)です。重度の知的障害者本人が、自分でお金に困っていることに気づき、役所に行って生活保護の申請手続きを全部やることは、現実的には難しいです。

家族申請を抑制する「保護の補足性」

本人ができない場合、法律上は家族(親やきょうだい)が申請することもできます4。しかし、ここで別のルールが壁になります。「まずは家族ができる限り助けなさい」というルールです5

家族が申請を手伝おうとすると、役所から「生活保護の申請をする前に、まずは家族がお金を出して支えてください」と言われて、申請を受け付けてもらえないことがあります。

現場職員の支援義務と行政対応の矛盾

運営基準上の「手続き代行義務」

家族も動けない場合、グループホームの職員が支援することになります。

グループホームの指定運営基準には、利用者が日常生活を営む上で必要な行政機関に対する手続きについて、本人や家族が手続きできない場合は、本人の同意を得て、代わりにやらなければならないと書かれています。

つまり、家族が申請できないなら、職員が代わって行うことは、仕事としてやらなければならないことなのです6

国の方針による「代理申請」不可

しかし、厚生労働省(国)は、この職員の仕事を事実上認めていません。国の考え方では、生活保護の申請は「本人の意思で決めること」が原則であり、誰かが代わって申請することは「原則として認められない」としています7

グループホームの指定運営基準には「本人の同意を得て」とありますが、重度の知的障害者の場合、その「同意(意思表示)」が本当に有効なのかを役所から疑われれば、職員が代理人として動くことができません。

窓口で追い返される「水際作戦」

この国の考え方を盾にして、役所の窓口で行われているのが「水際作戦」です。弁護士会の説明によると、水際作戦とは「保護を受けたい人が役所に行っても、担当者が申請させないようにして、ただの相談として済ませてしまう違法な対応」のことです8

職員が指定運営基準に従って申請しようとしても、窓口の担当者は「本人の意思が確認できない」「代理申請は認められない」と言って申請を受け付けず、「相談」扱いにして追い返してしまいます。弁護士会などはその役所の対応を批判していますが、法律の専門家ではない現場の職員が、国のルールを盾にする役所に対して言い返すのは、難しいでしょう。

「成年後見人」だけが確実に申請できる

国のルールの中で、本人以外で申請できると認められているのが「成年後見人」です9。国は、成年後見人には生活保護の申請をする権限があると認めています。なお、保佐人や補助人の代理申請は認めていません。

職員が代わりに申請することさえ断られてしまう今の状況では、重度の知的障害者が確実に生活保護をもらうためには、法律上の代理権を持ち、役所と対等に話ができる「成年後見人」をつけることが、残された現実的な方法です。

まとめ

調査の結果から、生活保護をもらえそうなほどお金に困っている人が8割以上もいるのに、実際にはもらえていないことが分かりました。これは、「本人が申請しないといけない」という法律の仕組みを逆手に取って、やるべき仕事として支援しようとする職員さえも「水際作戦」で追い返してしまう役所の対応が原因です。

この問題を解決し、生活保護を受給するための有効な対策は、成年後見人を選任することです。成年後見人には法律が定める代理権があり、国も生活保護の申請権限を認めているため、役所による不当な門前払いを防ぎ、生活保護を代理申請することができます。

なお、この記事で取り上げた実態調査報告書は貴重な資料ですが、本来なら生活保護がもらえるはずの人たちを支えているはずの家族からの仕送りなどの経済的支援の有無や、申請するための鍵となる成年後見人がどれくらい選ばれているかについては調べられていないことは、伝えておかなければなりません。知的障害者の困っている状況を正確に知るためにも、こうした「見えない数字」にも目を向ける必要があります。

  1. 1.令和5年度工賃(賃金)の実績について ↩︎
  2. 2.令和5年度全国グループホーム実態調査報告 ↩︎
  3. 3.生活保護法7条 ↩︎
  4. 4.同上 ↩︎
  5. 5.生活保護法4条2項 ↩︎
  6. 6.障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準211条の2第2項213条の9第3項 ↩︎
  7. 7.「生活保護問答集についての一部改正について」 ↩︎
  8. 8.「代理人による生活保護申請はなじまない」とする厚生労働省の新設問答の削除を求める意見書 ↩︎
  9. 9.「生活保護問答集についての一部改正について」 ↩︎

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