退去をめぐる法的ルールを共通認識に
「共同生活援助の利用契約を解除したので、〇日までに退去してください。」グループホーム事業者からこのように退去を求められたら、利用者は必ず退去しなければならないのでしょうか。
当事務所では、障害者グループホームからの退去をめぐるトラブルを多数取り扱っています。
その中で感じるのは、利用者側と事業者側では立場は異なっても、退去をめぐる法的ルールは双方の共通認識として持っておくことが重要だということです。
その法的ルールを理解していれば、利用者・ご家族は、退去を求められても必要以上に慌てることはありません。
また、事業者も、一方的な契約解除に頼るのではなく、合意解約を目指すことが実務上重要である理由を理解できます。
共同生活援助利用契約と居室の賃貸借契約の関係
障害者グループホームを利用する場合、利用者は共同生活援助サービスの提供を受けるだけでなく、事業者から居室を借りて生活することになります。
そのため、利用者と事業者との間には、共同生活援助サービスの提供契約と居室の賃貸借契約という二つの契約関係が存在します。
国(厚生労働省)も、利用者の居室については、利用者と事業者との間で賃貸借契約を締結していると捉えています1。
もっとも、実際には、これら二つの契約を一体として、一つの共同生活援助利用契約が締結されるのが一般的です。

共同生活援助サービスの提供契約と居室の賃貸借契約が一体となった契約であることを理解することが、グループホームの退去をめぐる法的ルールを理解する出発点となります。
契約解除と居室の明渡しは別問題
グループホームの退去で紛争となるのは、多くの場合、事業者が共同生活援助利用契約を解除し、利用者に退去を求める場面です。
ここでいう「退去」とは、利用者が私物を運び出し、居室を事業者へ返還すること、すなわち「居室の明渡し」を意味します。
事業者は、共同生活援助利用契約を有効に解除したと考えれば、その時点で共同生活援助サービスの提供を停止します。事業者としては、有効な契約解除によってサービス提供義務は終了したと考えているからです。
一方、居室の明渡しは、利用者が自主的に行うことが前提です。利用者やその家族が契約解除に納得せず、引き続き居住を希望する場合には、自主的に居室を明け渡すとは限りません。
そのため、事業者が契約を有効に解除したと考えていても、それだけで居室の明渡しが実現するわけではありません。
自力救済の禁止
賃貸借契約では、利用者が自主的に居室を明け渡さない場合、原則として、裁判所の手続を利用しなければ明渡しを実現することはできません。
別の言い方をすると、共同生活援助利用契約を有効に解除したと考えている事業者であっても、自ら利用者を居室から追い出したり、居室内の私物を運び出したりして明渡しを実現することは、原則として禁止されています。
このルールを「自力救済の禁止」といいます2。
そのため、居室の明渡しに任意に応じない利用者から居室の引渡しを受けるためには、裁判所の法的手続を利用しなければなりません。
このルールに反して自力で居室の明渡しを実現した場合には、不法行為として損害賠償責任を負うだけでなく、事案によっては刑事責任を問われる可能性もあるため、注意が必要です。
一方的な契約解除ではなく合意解約を目指すべき理由
利用者側から見れば、事業者による共同生活援助サービスの提供停止を現実に阻止することは容易ではありません。
もっとも、利用者には、居室を任意に明け渡さないという対抗手段があります。契約解除に納得できない利用者やその家族が居室の明渡しを拒否すれば、事業者は裁判所の法的手続を利用しない限り、明渡しを実現することができません。
事業者にとっては、その間、新たな利用者を受け入れることができず、居室を有効に活用できない状態が続くことになります。
このように、一方的な契約解除には、居室の明渡しをめぐる紛争を生じさせ、裁判所の法的手続によらなければ解決できなくなるリスクがあります。そのため、契約解除は最後の手段と考えるべきです。
利用者やその家族と誠実に話し合い、転居先や新たな受入先を確保した上で、合意解約を目指すことが重要です。

遠回りに思えるかもしれませんが、利用者・事業者双方にとって、紛争を避けながら円滑に退去を実現する最も現実的な方法といえるでしょう。
- 平成26年度障害福祉サービス等制度改正に関するQ&A(平成26 年4月9日)20頁問57 ↩︎
- 最三小昭和40.12.7民集19巻9号2101頁 ↩︎